後方散乱を用いた結晶化用タンパク質サンプルの評価

イントロダクション

タンパク質の高次構造を詳細に決定するには、NMRやX線による解析が広く用いられているが、より正確なたんぱく質の高次構造の検討には、より純粋なタンパク質の精製物が必要であり、また可能であればタンパク質結晶を得ることが必要である。

しかし、タンパク質を結晶化するためには、試行錯誤して膨大な労力をかけながらも、タンパク質結晶を得ることができない-という問題にしばしば直面する。これは、タンパク質の精製度の問題と共に、結晶化できるか否かの一義的な評価を行うことができないこと、結晶化を行なうための論理的・系統的情報が十分でないことなどの背景があると思われる。

これらの諸問題点を解決し、簡略化する方法として、マルバーン・パナリティカル社製ゼータサイザーNanoZS(以下、NanoZS)の使用を検討した。

NanoZSは動的光散乱法(DLS)を採用した粒度分布解析装置である。粒子径測定、ゼータ電位測定と共に分子量測定が可能である。633nm(あるいは532nm)のレーザ光をサンプルに照射し、粒子から散乱する光子を捕らえ解析する。後方散乱光検出方式や高感度検出器を搭載することにより、広いタンパク質の濃度領域を測定することが可能となっている。

これらの機能を活用し、タンパク質結晶化の工程を簡略化する検討を行なったので報告する。

測定の原理と効果

動的光散乱法による粒径分布の測定は、サンプルが結晶化に適しているか否かの評価に有効な方法の1つであることが知られている。動的光散乱法の測定において、従来は、主に側方(90°)での測定が主流であった。しかし、側方散乱光を用いた測定では、レイリー散乱領域、特にHydrodynamic Diameter に換算して50 nm 以下の微小領域の場合に得られる散乱強度は最小になるため、検出感度を上げるためにサンプルの濃度を高くする必要がある。

NanoZS では173°の後方散乱光を検出し(非接触後方散乱光学技術:NIBS:Non-Invasive Back-Scatter) 、レーザ光照射容積の増加を図り、低濃 度タンパク質検出を可能としている(図2)。また、従来法(側方90°散乱方式)では、散乱光路長を変化させることができないため、サンプル濃度が高い場合には粒子から散乱した光が他のサンプル粒子に当たり再度散乱する現象(多重散乱現象)が起こることがあった。このため、サンプル濃度の上限も決められてしまう欠点があった。これに対してNanoZS では、レーザ照射位置とサンプル位置とを自動調整して、適切な散乱光量を得て解析するシステムを採用し、高濃度タンパク質サンプルに対する測定精度を向上させている(図3)。さらに、検出器には高感度なアバランシェ・フォトダイオード(APD)を採用することにより上記の性能を向上させている。


以上の結果、従来法ではできなかった超高濃度での評価や低濃度での測定することができる。超高濃度の測定では結晶条件に近い(あるいは同等の)条件での評価を行うことが可能となり、また、低濃度での測定では、サンプル濃縮前の条件での評価を行えることが期待できる。


図2.後方散乱と側方散乱の比較
A-1,A-2:後方散乱(A-1)と側方散乱(A-2)の比較をしたところ、後方散乱(173°)での分析量が側方散乱(90°)の約8 倍を示していた。

図3.NIBS システム
後方散乱を採用した本システムでは濃度によって分析位置を変化させることができる。感度が必要な希薄溶液の場合はセルの中心部分(B-1)で測定し、一方レーザ透過に問題があったり多重散乱の影響がある濃厚サンプルの場合はそれらの影響を最小にするためセル壁付近(B-2)での測定を実施する。

材料と方法

  • 測定粒子:ウシ血清アルブミン(Albumin, Bovine serum: BSA、Mw:66kDa)
  • 緩衝液:PBS(リン酸生理食塩水、pH7.5)
  • 装置:ゼータサイザーナノZS(図1)ゼータサイザー3000HS
  • セル:12 μL専用セル


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