高温マルチ検出器によるカーボン充填ポリエチレンの安全・正確な測定

10%のカーボンが含まれたポリエチレンを、外部ろ過による前処理を行うことなく、高温マルチ検出GPCシステムで分析を行いました。

はじめに

ポリエチレン(PE)は、世界で最も広く使用されているポリマーの 1 つであり、単純な構造でありながら、パイプラインや電線被覆から買い物袋に至るまで、日常生活において様々な用途に使用されている。 ポリエチレンの特性は、分子量によるところが大きく、このパラメーターをゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって分析することは、研究や品質管理にとって極めて重要である。 この分析の最大の問題は、ポリエチレンを含むポリオレフィン類が室温では溶解しないことである。 こうしたポリマーを溶解させるには、温度を 140-160 ℃にする必要がある。

各種用途のニーズに応じてポリオレフィン類の特性を変えるために、適切な充填剤を使ってポリマーに変更を加えることが一般的になってきている。 これによって、分子量の分析に新たな課題が生じる。GPCでの分析前にポリマー混合物からこうした充填剤を除去する必要があり、これには高温での、ろ過が必要となり、分析がより難しくなるからだ。 このプロセスは、通常、大量の溶液を 140-160 ℃で、ろ過することにより行うため、実用面、安全衛生面の課題が生じる。

ここでは、カーボン充填 PE を、装置にかける前に、外部ろ過による前処理を行うことなく、Viscotek 高温 GPC システムを使用して前処理、および分析を行った結果を報告する。

計測機器

Viscotek 高温 GPC(HT-GPC)は、ポリオレフィン類の特性評価専用のシステムであり、マルチ検出技術を、この用途に適用する。

GPC/SEC の原理は分子を、分子量によってではなく、その流体力学な、半径(Rh)または体積(Vh)によって分離するものである。 分離は、多孔質の微粒子材が充填されたカラムで行われる。 サイズの大きな分子は、充填剤の孔に入ることができないため、サイズの小さい分子よりも速くカラムを通り溶出します。 その結果、分子はその大きさによって分類され、最も大きな分子が最初に溶出し、最も小さな分子が最後に溶出する。 次の図は、GPC による分離のメカニズムを図示している。

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マルチ検出(3 段検出)は、今日の GPC/SEC では標準的な技術であり、 ポリマーの特性評価のための推奨方法となっている。 3 段検出では濃度検出器、粘度検出器、光散乱検出器を合わせて使用し、各検出器がそれぞれに異なる補足的な情報を提供する。

光散乱検出器では、散乱光強度から絶対分子量を直接測定することが可能であるため、複数の標準試料を流して溶出体積と分子量の関係を示す曲線を求めるための、カラムキャリブレーションを行う必要がない。 粘度検出器では、固有粘度または分子密度を直接測定することが可能で、分子の大きさ、配座、構造を判定できる。 濃度は屈折率検出器(RI)により測定する。このパラメーターは分子量と固有粘度両方の決定に必要である。

3 段検出により、時間のかかるカラムのキャリブレーションをすることなく、絶対分子量をはじめとする様々な情報を得ることができる。 分子量分布の狭い標準試料を 1 種類流すだけで、各検出器の感度定数を校正出来、また検出器間の配管の体積と、ピークの広がり効果を補正することができる。 ピークの広がりの補正はマルチ検出 GPC/SEC を使う上で極めて重要であるが、 OmniSEC ソフトウェアで使用している補正計算アルゴリズムは、この分野での 20 年以上におよぶ経験に基づいて設計されている。

方法

試料には、 約 10% のカーボンブラックを充填したポリエチレンペレットを使用した。 カラムに、この充填剤が入るとカラムの寿命が著しく短くなるため、試料の準備段階では、通常は大量のサンプル溶液のろ過を、高温で行う必要がある。 しかしながら、Viscotek HT-GPCでは、独自の特徴の1つである、インライン自動洗浄フィルターによって、カラムに流すごく少量の試料だけをろ過するシステムにより、試料の準備が非常に簡単になっている。 HT-GPC が注入された試料を自動でろ過してくれるため、高温の試料を準備用の瓶からろ過してオートサンプラーの瓶へと移す必要がない。 これにより試料準備の工程が全自動で行われるため、測定の効率、精度、安全性が高まる。

試料の準備

試料約 30mg を正確に量り取り、攪拌子を入れた 40mL のバイアル瓶に入れる。 安定化 TCB(1,2,4-トリクロロベンゼン)10ml を加え、テフロン加工したキャップで瓶を密閉し、Vortex オートサンプラーに入れ、160°Cで 3 時間撹拌させる。 注入してから GPC カラムに入るまでに、試料は自動的にろ過され、カーボン充填剤が取り除かれる。 試料を分析している間、カーボンを取り除くのに用いたフィルターは、次の試料注入に備え自動的にバックフラッシュ洗浄される。

結果

図 1 は、屈折率検出器(RI)、90°光散乱検出器(RALS)、7°低角光散乱検出器(LALS)、粘度検出器(VIS)の信号を示している。 TCB(1,2,4-トリクロロベンゼン)を溶離液として、200μL で 7 回測定を繰り返した。流量は 1.0mL/ 分とし、3 本の混床カラムを連結して測定した。 カラム、検出器、検出器間のチューブを含むシステム全体の温度は 150°C に保った。 検出器間の体積、バンドの広がり、計測機器の定数は、分子量分布の狭いポリスチレン標準を用いて決定した。 PE 試料の dn/dc 値は 0.102mL/g を使用した。

図 1「カーボン PE」の高温 GPC3 段検出クロマトグラム
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表1と2に使われているパラメーター

Mw: 重量平均分子量 (Da)
Mn: 数平均分子量 (Da)
Mw/Mn: 多分散性
IV: 固有粘度 (dl/g)
Rh: 流体力学半径(nm)
dn/dc: 屈折率増分 (ml/g)

考察

本研究は、不溶性の充填剤を添加した試料を扱う測定装置の能力を評価することを目的として行なった。 約 10% のカーボンブラックを充填剤とした。

表 1 は、7 回繰り返し行なった、カーボン充填試料の分析が精度良く行なわれたことを示している。本システムの性能が、充填剤による影響を受けなかったことが分かる。 このことを確認するために、ポリスチレン 99K の標準試料を、測定試料と交互に 4 回注入し、システムの安定性を判定した。 表 2 に示す結果から、本システムが非常に安定していることが分かる。

表 1 カーボン PE の HT GPC による分析と 3 段検出法による計算の定量結果
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表 2 システム安定性のモニタリングで測定した標準と 3 段検出法による計算結果
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まとめ

カーボン充填ポリエチレン試料は Viscotek HT-GPC システムによって再現性良く分析することができた。 試料に混合されたカーボンブラック充填剤は、分析に悪影響を及ぼすことがなく、HT-GPC の自動ろ過システムによって除去することができた。 このことは、充填剤を添加したポリオレフィン類が、最小限の試料準備工程により、大量の試料の、ろ過をすることなく HT-GPC によって分析できるようになったことを意味する。

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