カロリメーターマスターへの道 Vol.5 自力でトラブルシューティング その1~その2

ここに登場する人物とストーリーはフィクションです。
テクニカルに関する内容に関しましては、大阪府立大学客員研究員 深田先生にご助言をいただいております。


記事の下部より関連資料のダウンロードが可能です。ぜひご覧ください。


いよいよITCについてのご案内が最後となります。皆様のご研究にお役に立てるような情報を提供できておりましたでしょうか?
さて今回は、イレギュラーなデータが得られたときにどのように対応していけばよいか、実際のデータを示しながらご案内していきたいと思います。

仲村さん。今日でITCについてのトレーニングが終了になりますね。だいぶ自信がついたのではないですか?

はい!深田先生のおかげで、実験操作、解析も一通りこなせるようになったと思います。ありがとうございました!

それはよかったです。では今日は、仲村さんが今後経験するかもしれない測定トラブルについて、実際のデータを示しながらお話をしたいと思います。

よろしくお願いします。

その1 

よくあるITCのトラブル その根本の原因を考えよう!

これまでもすでに、仲村さんはいくつかのトラブルを経験していますよね?

滴定シリンジが洗浄できなかったり、DPの値が設定値にならなかったり、ですね。


そうでしたね。ではここで、システム、というよりデータに関して起こりうるトラブルを列挙してみましょう。


いろいろありますね。


そうですね。でもですね、仲村さん。なぜこのような現象が起こるのか、それを理解しておけば、ご自身でトラブルシューティングができるようになりますよね。ということで、一緒に考えていきましょう。

 はい、よろしくお願いします。

その2 ベースラインのポジション異常!なぜ!?



まず復習になりますが、ITCではなぜシグナルが上に出たり、下に出たりするかご存知ですよね?


サンプルセル内でサンプルの相互作用によって熱量変化が起きたときに、リファレンスセルと温度差が生じます。それを補填するために、例えば発熱反応が起きた場合は温度を下げるためのフィードバックが働き、下向きのシグナルが出る、ということですよね?


その通りですね。このように、ITCのシステムは、サンプルセルの中で起こった熱量変化に対し、リファレンスセルとの差をなくすようにコントロールしていることになります。よって、サンプル測定前にベースラインのDP値が設定した値より低くなる、ということは、なんらかの原因で、サンプルセル内がリファレンスセルよりも温度が高い状況になっていることを示唆することになります。その原因として、こちらに示したことが考えられます。

エアコンのお話は以前伺いました。滴定シリンジを伝わって、サンプルセル内の温度が変化してしまい、それがDPに反映されてしまうんですよね。滴定シリンジ、とはこのことですか?


いいえ、この場合、滴定シリンジが「物理的」にセルにぶつかってしまうことになります。
物理的にぶつかる??
滴定シリンジが曲がってしまい、セル内部にぶつかるようなことが起こってしまうと、そこで摩擦熱が生じますよね?

そんなことがあるんですね!?


その他にもiTC200の場合、滴定シリンジのナットの部分がゆるんでしまっていると、正しい位置にシリンジがセットされず、セルの底にぶつかってしまうこともあるようですよ。

補足します。VP-ITCでもシリンジが曲がっていたり、高さ調整が適正に行われていないと同様の現象が起こります。また、測定を開始したにも関わらず、いつまでたってもDPがマイナスの値を示し続けている場合も、シリンジが曲がっている、またはぶつかってしまっていることが考えられます。


では回転数は?


回転数が速いほうが、やはりこちらも摩擦が起こりやすくなりますから、その分DPが下がる傾向なります。


なるほど!ベースラインが下がるのは、なんらかの原因で、サンプルセル内の温度が上がったから、と考えればよいのですね。では温度設定の影響は?

こちらのデータはVP-ITCで取得したものになりますが、Referene Powerを11 μcal/secに設定して、測定温度を変えたときのベースラインのDP値をプロットしたものになります。測定温度が高くなるとDP値が低めに出る傾向があるのがお分かりいただけると思います。ですが、実際に測定する室温程度のところでは影響がないのもわかりますよね?

そうですね。


ここまではシステムに由来したベースラインポジション異常の影響を見てきました。では仲村さん。システム由来以外にベースラインポジションに影響を与えるものは何が考えられますか?

これまでの経験だと、溶液中に空気が入っていたり、セルが汚れていたりしていました。

その通りですね。滴定が開始される前のDP値をモニターすることで、どちらのセルに気泡が混入しているかが分かりますね。通常、設定したReference Powerに対し、DP値は±1 μcal/sec以内に収まる必要があります。サンプルセルに気泡が入っていればDP値は低めに、リファレンスセルに気泡が入っていれば、DP値は高めに出ます。大丈夫ですね?

はい!サンプルセルが汚れている場合も、DP値が低めに出る、ですよね。

そうですね。ほとんどの場合、DP値が安定しない場合はサンプルセルの汚れが原因であることが多いです。以前もお話しましたが、測定毎に14% Decon 90(または20% Contrad 70)でサンプルセルを洗浄する習慣を身につけておくと、システムを良好な状態で保つことができます。手間を惜しまず、メンテナンスを実施してくださいね。

はい!わかりました!!ところで先生、滴定シリンジ側のサンプルに気泡が入っていると、どのようなデータが得られるようになりますか?


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