XRDによるリチウムイオン電池や次世代電池システム用カソード材料の分析事例

韓国の漢陽大学校(Hanyang University)からお客様の声をお届けします。

漢陽大学校ではマルバーン・パナリティカルのX線回折装置Empyreanを所有しています。この大学では、先進的なリチウムイオン電池や次世代電池システムのカソード材料の分析を研究されています。

ユーザ様

Nam-Yung Park (박남영)様
Hanyang University (한양대) Energy engineering department (에너지공학과),
Prof Yang-Kook , Sun (Highly Cited Researcher in the field of Materials Science – 2022)
Energy Storage & Conversion Materials Lab

研究テーマについて教えてください

私たちの研究室では、先進的なリチウムイオン電池や次世代システム向けのカソード材料を中心により高容量、より長いサイクル、より安全な電池材料の研究開発に取り組んでいます。材料の物理的・電気化学的特性の基礎的理解に基づき、リチウムイオン電池のエネルギー密度、サイクル寿命、安全性を向上させる革新的なカソード材料の開発や評価を行っています。

国内外の化学メーカー、二次電池メーカー、自動車メーカーと共にコア技術の研究開発や、現在商用利用可能な技術についての実験も行ったりしています。また、未来型の電池システムを探求しその実現を目指しています。私たちは、これらの革新的な電池材料を活用し、未来のために環境にやさしい世界を築くことを目標としています。

直面している重要な課題や解決すべき問題は何でしょうか?

 Li[NixCoyMn1-x-y]O2 (NCM) カソード中のNiの含有量が60%以上になると、H2相-H3相転位時の急激な格子体積変化による異方性歪の蓄積により、マイクロクラックの範囲が急激に増加します。その結果、Ni rich カソード粒子内にマイクロクラックが生じ、そこから電解液が粒子内部に侵入し、電解液にさらされる表面積が増加してしまいます。この表面積が増えることにより、Ni richカソードの容量低下がさらに加速してしまいます。Ni richカソード材料の劣化を抑制するために、私たちは格子体積変化による内部歪みを分散させることができる微細構造の改変に着目しています。

カソード材料の微細構造は、水酸化物前駆体や焼結工程によって大きく左右されます。水酸化物前駆体と水酸化リチウムの混合物を高温(700~800℃)で焼成すると、Li+イオンを(脱)インターカレーションできる層状結晶構造が形成されます。しかし、焼成中に一次粒子が粗大化すると、微細構造が破壊され、マイクロクラックの形成に対するカソードの機械的安定性が損なわれてしまいます。一方、一次粒子の形態を調整するために焼成温度や浸漬時間を制限すると、カソードの完全な結晶化が妨げられ、その後のカチオン混合によりサイクル特性が悪化します。従って、カソード材料を粗大化させることなく完全結晶化を達成することは、解決すべき最も重要な課題の一つと考えられています。

どのようなアプローチやソリューションを検討または評価しましたか?また評価プロセスや選定基準について説明ください。

一般に、焼成時には水酸化物前駆体が完全に結晶化する最適な温度があります。高温はアンチサイト欠陥などの構造欠陥を焼鈍することができます。一方過度に高温になってしまうとLiの欠損やカチオンミキシングを誘発してしまいます。Li+(0.076nm)とNi2+(0.069nm)の半径が似ているため、Li/Niが入れ替わってしまうカチオンミキシングという現象の温度は、層状構造の結晶性を判断するために用いることができます。この構造情報と走査型電子顕微鏡(SEM)によるカソード粒子の微細構造、およびそれぞれの電気化学的性能を組み合わせて、カソード材料の最適焼成温度が決まります。

マルバーン・パナリティカルのXRDをご利用になられる前は、どうやって評価されていたのでしょうか?

X線回折装置を利用する前は、浦項(Pohang)にある、粒子加速器によるXRD分析を行っていました。更に原子レベルでの結晶構造を決定できる透過電子顕微鏡(TEM)分析も行っていました。

マルバーン・パナリティカルのXRDを選ばれた理由と、製造/研究/開発プロセスへ、どう当てはまっていくかについて教えてください。

XRDは多くの結晶構造情報を得ることができるため、ラボに設置できるコンパクトかつ強力なXRD装置を求めていました。マルバーン・パナリティカルのX線回折装置は、粉末サンプルだけでなくパウチタイプのセルも分解せずに分析することができます。セルのin-situ XRD分析により、電池の充放電に伴う構造変化を詳細に把握することができます。Ni rich カソード材料の容量低下メカニズムは、急激な構造変化が起こるH2-H3相転移によって大きく左右されるため、セルを分解せずにカソードの構造変化を解析することは、高エネルギーNi rich カソード材料の開発に重要と考えられます。

様々な課題を解決するために弊社の装置はどのように役立っているのでしょうか?

また、ご利用いただいている装置はなんでしょうか?

装置をご利用いただくことにより、どのようなデータを得ることができていますか?そしてそれはお客様のご期待に応えているでしょうか?

私たちの研究室では、反射モードと透過モードで分析できるXRD分析装置 Empyreanを所有しています。反射モードは、カソードの粉末サンプルを分析し、格子定数や層状性を決定するために使用されます。透過モードは、多くの部品(電極、セパレーター、AIパウチなど)で構成されるパウチ型セルの分析に使用されます。充電と放電により、カソード材料の構造変化に対応するピークのシフトを分析しました。例えば、カソード材料の化学組成による格子定数の変化はリートベルト法により解析することができます。さらに、H2-H3相転移時のH2およびH3ピークの反射をデコンボリューション(003)することで、カソード材料の構造反転性を比較することができます。XRD分析で得られたカソード材料の構造情報は、私たち研究室の期待に十分に応えるものでした。

装置をご利用いただいてどうでしたか?期待通りでしたでしょうか?

直感的なインターフェースで正確な解析が可能です。また、目的に応じて様々なアクセサリーを活用することができます。

弊社のEmpyreanが今後どのように研究へ貢献できるのでしょうか?また、アプリケーションの更なる開発やシステムの追加や拡張などはご検討されていますか?

私たちの研究所では、高温反応槽を用いたTR (time-resolved)-XRD分析を行う予定です。TR-XRD分析を行うことで、実際の焼成工程に近い熱処理中の相転移と相進化をリアルタイムで解析することが可能になります。

今後マルバーン・パナリティカルと仕事をする上で期待することは何でしょうか?

結晶構造が電気化学性能に大きく関わるカソード材料の解析だけでなく、次世代電池材料(全固体電池、Li-Sulfur電池など)においても、結晶構造の解析に大いに役立つと思われます。