LiCoO₂の結晶構造とは?電池性能との関係・XRD解析まで解説

この記事でわかること
この記事では、リチウムイオン電池の正極材料として広く使われている LiCoO₂(コバルト酸リチウム) の結晶構造について、以下のポイントを中心にわかりやすく解説します。
- LiCoO₂の結晶構造(α-NaFeO₂型)とは何か?
- 構造安定化のための材料設計や応用技術
- 結晶構造が電池性能(容量・寿命・安全性)に与える影響
- 充放電に伴う相転移(H1 → H2 → H3)とそのメカニズム
- XRDやRietveld解析、電子顕微鏡による構造解析手法
- よくある質問(FAQ)で疑問をスッキリ解消!
LiCoO₂の結晶構造はなぜ重要?
LiCoO₂(コバルト酸リチウム)は、リチウム(Li)、コバルト(Co)、酸素(O)からなる無機化合物で、層状の結晶構造を持つ材料です。LiCoO₂はリチウムイオン電池の正極材料(カソード)として非常に優れた性質を持ち、高いエネルギー密度と安定した電気化学特性があります。しかし、その性能を最大限に引き出すためには、結晶構造の理解が不可欠です。
結晶構造が果たす役割
LiCoO₂は、層状構造(α-NaFeO₂型)を持ち、リチウムイオンがコバルト酸化物層の間に整然と配置されています。この構造により、充放電時にリチウムイオンがスムーズに出入りできる「イオンの通り道」が確保されており、これが高い充放電効率と長寿命を実現する鍵となっています。
構造変化が性能に与える影響
しかし、充放電を繰り返すことで、LiCoO₂の結晶構造は徐々に変化します。たとえば、
- リチウムの脱離が進むと、Co³⁺がCo⁴⁺に酸化され、構造が不安定化
- 層間距離の変化や相転移(H1→H2→H3相)が起こり、電池の容量低下や膨張・発熱の原因になる可能性
LiCoO₂の結晶構造は、電池の容量・寿命・安全性に直結する重要な要素です。
リサイクル需要
近年では、より高容量・高出力な電池が求められる一方で、安全性やリサイクル性への関心も高まっています。LiCoO₂のような材料の構造安定性や劣化メカニズムを深く理解することは、次世代電池の開発や既存材料の改良にとって不可欠です。
参考記事:リチウムイオン電池(ブラックマス)の分析・抽出・リサイクル技術
結晶構造と電池性能の関係

LiCoO₂のような層状構造を持つ正極材料では、結晶構造の安定性がそのまま電池性能(容量、寿命、安全性)に直結します。特に、リチウムイオンの脱挿入(インターカレーション)に伴う構造変化は、性能劣化や安全性の課題と密接に関係しています。
リチウムイオンの脱挿入と構造変化
LiCoO₂の結晶構造は、充電時にリチウムイオンが正極から抜け出し、放電時に再び戻るという可逆的な反応を繰り返します。このとき、リチウムが抜けることでCoの酸化状態が変化(Co³⁺ → Co⁴⁺)し、結晶構造にも応力がかかります。
- 少量のリチウム脱離:構造は比較的安定
- 過剰なリチウム脱離(過充電):酸素の脱離や構造崩壊が起こりやすく、安全性の低下や容量劣化の原因に
充放電による相転移(H1 → H2 → H3相)

LiCoO₂は、充放電に伴って複数の相(フェーズ)を経由します。代表的なものが以下の3つの六方晶相です。
相 | 特徴 | 状態 |
H1相 | 初期状態。リチウムが十分に存在し、構造が安定 | 放電状態(低電圧) |
H2相 | リチウムが一部脱離。層間距離がわずかに変化 | 中間電圧 |
H3相 | リチウムが大きく脱離。c軸方向に収縮が起こり、構造が不安定化 | 高電圧(過充電) |
特に、H2→H3相転移では、層間距離の急激な変化が起こり、構造に大きなストレスがかかります。これが繰り返されると、粒子の割れや電極の劣化につながり、サイクル寿命の低下を引き起こします。
結晶構造の安定性とサイクル寿命の関係
LiCoO₂の長寿命化には、以下のような構造安定化の工夫が重要です。
- リチウムの脱離量を制限
- ドーピング(例:Mg, Al, Ti)による構造補強
- 粒子サイズの最適化やコーティングによる表面保護
これらの工夫により、相転移の抑制や構造崩壊の防止が可能となり、電池の性能と寿命を大きく向上させることができます。
LiCoO₂の結晶構造は単なる静的な形ではなく、電池の動作中にダイナミックに変化し、その理解と制御が高性能電池の鍵を握っています。
X線回折(XRD)による構造解析
LiCoO₂をX線回折で測定すると、以下のような情報を得ることができます。
- 結晶系(六方晶)と空間群(R-3m)の同定
- 格子定数(a, c)の測定
- 相の識別(H1, H2, H3など)
- 充放電による構造変化の追跡
特に、c軸方向のピークシフトは、リチウムの脱挿入に伴う層間距離の変化を反映しており、電池の劣化診断にも活用されます。
参考記事:XRD(X線回折装置)の原理と概要をわかりやすく説明
Rietveld解析による精密構造解析
XRDデータをもとに、Rietveld(リートベルト)解析を行うことで、以下のような詳細な構造情報が得られます。
- 原子位置の精密化
- 占有率(リチウムの欠損など)
- 結晶子サイズやひずみの評価
これにより、LiCoO₂の構造安定性やドーピング効果の定量的な評価が可能になります。
電子顕微鏡(TEM, STEM)による局所構造観察
XRDが平均構造を捉えるのに対し、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査透過型電子顕微鏡(STEM)は、ナノスケールの局所構造や欠陥、界面構造を直接観察できます。
- 層状構造の可視化
- 粒界やドメイン構造の解析
- 劣化による構造崩壊の観察
これらの手法を組み合わせることで、LiCoO₂の構造を多角的に理解することができます。
マルバーン・パナリティカルのXRD装置「Empyrean」

LiCoO₂のような層状構造材料の解析には、高分解能かつ柔軟な測定が可能なXRD装置が求められます。マルバーン・パナリティカルのEmpyreanは、以下のような特長を備えています。
- 高分解能測定:層間距離の微小な変化も正確に検出
- 多目的対応:粉末、薄膜、バルクなど多様な試料に対応
- 自動化・高スループット:自動サンプルチェンジャーや温度制御ステージにより、効率的な測定が可能
- Rietveld解析ソフトウェアとの連携:構造解析をスムーズに実施
Empyreanは、研究開発から品質管理まで幅広いニーズに対応し、LiCoO₂のような電池材料の構造解析に最適なソリューションを提供します。

まとめ(FAQ)
Q1. LiCoO₂の結晶構造はなぜ重要?
LiCoO₂(コバルト酸リチウム)は、リチウムイオン電池の正極材料として広く使われています。その層状の結晶構造(α-NaFeO₂型)は、リチウムイオンが出入りするための「通り道」を提供しており、高いエネルギー密度と長寿命を実現する鍵となっています。
この構造が安定していることで、充放電のたびにリチウムイオンがスムーズに移動でき、電池の性能が維持されます。逆に、構造が崩れると容量低下や発熱、寿命の短縮といった問題が発生します。したがって、LiCoO₂の結晶構造を理解し、制御することは、高性能かつ安全な電池設計に不可欠です。
Q2. H3相になると何が起こる?
LiCoO₂は充放電に伴って、H1 → H2 → H3という相転移を経ます。特にH3相は、リチウムが大きく脱離した状態で、c軸方向に構造が収縮し、結晶が不安定になるのが特徴です。
このときに起こる主な現象は以下の通りです。
- 層間距離の急激な変化 → 結晶に大きな応力がかかる
- 粒子の割れや微細なクラックの発生 → 電極の劣化
- 酸素の脱離や熱暴走のリスク → 安全性の低下
つまり、H3相への移行は、電池の寿命や安全性にとって非常に重要な転換点であり、これを抑制するための材料設計(ドーピングやコーティングなど)が研究されています。
Q3. XRDで何がわかるの?
XRD(X線回折)は、LiCoO₂のような結晶性材料の構造を非破壊で解析できる強力な手法です。具体的には以下のような情報が得られます。
- 結晶系や空間群の同定(LiCoO₂は六方晶、R-3m)
- 格子定数(a, c)の測定 → 層間距離の変化を追跡
- 相の識別(H1, H2, H3) → 充放電に伴う構造変化の可視化
- ピークシフトの解析 → 劣化や応力の兆候を検出
さらに、Rietveld解析を組み合わせることで、原子位置やリチウムの占有率、結晶子サイズなどの精密な構造情報も得られます。これにより、材料の劣化メカニズムやドーピング効果の定量評価が可能になります。
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