ITCセル洗浄のTips

洗浄に与える要素は3つあります。

・洗浄液(セル内にある汚れを効果的に除去する能力があるかどうか)

・頻度(どのくらい繰り返し“洗浄”操作を行うか)

・温度(洗浄液後を両方のセルに充填した後、何度にThermostatするのか)

洗浄液>頻度>温度、の順に重要性が高いと考えられます。次の項目で概説します。

洗浄液

洗浄液の大原則は、装置を溶かさず、汚れを溶かす。です。

ITCのセルはHastelloy C276を用いており、この他に支持材としてプラスチック樹脂、ステンレススチールが用いられています。洗浄液をご利用いただく場合には、これらを腐食、溶解することが無い性状の洗浄液を必ず選択して下さい。推奨しています、14% DECON90(または20% Contrad70)以外のご利用につきましては、ある一定の上記リスクが伴います。

タンパク質や核酸等の通常のサンプルを用いた測定では、推奨の洗浄液である14% DECON90溶液にて殆どの汚れに対処することが可能です。また、新しい装置や、定期的にメンテナンスを行っていらっしゃる装置ではほとんどのケースで14% DECON90で対応が可能です。

しかしながら、汚れの度合い、種類によっては、DECON90による洗浄では効率的な除去が期待できない場合があります。例えば、近年、疎水性が高い、低分子化合物をサンプルとして用いるお客様がいらっしゃいます。セルの汚れが問題となった際に、50% DMSO溶液による洗浄が有効であることが確認されています。この他、目的に応じて下記の様な洗浄液を選択します。

・14%(v/v) DECON90水溶液

・1-5N NaOH水溶液

・50%(v/v) DMSO水溶液

・希釈した家庭用食器用洗剤

・2倍希釈したパイプ洗浄剤(ジョンソン株式会社パイプユニッシュ)

・1%(w/v)クエン酸水溶液

・タンパク質分解酵素入り洗剤

頻度

同じ洗浄液、漬け置き条件でも、何回か繰り返し行うことにより除去が可能なことがあります。特に汚れが蓄積した場合には、1度の洗浄では不十分な場合があります。水―水滴定等により洗浄の効果を計りながら、効果が見られた洗浄液を用いて数回行って完全にベースラインや滴定サーモグラムが良好な状態へと復旧をさせて下さい。

温度

家庭用の洗剤同様に、強固な汚れに対しては、洗浄の際に洗浄液を加温することにより効果が高まります。高温条件下では腐食等セルへのダメージがありますので、用いる薬品に対するセルユニットの化学耐性を文献等により必ずご確認下さい。セルユニットを構成する材料(金属、樹脂類)の情報は装置付属のユーザーマニュアル(英文)の巻末に記載があります。不明な場合にはお尋ねください。

以下は具体的な洗浄の方法になります。

<操作前のご注意点>

・洗浄液は強塩基や有害性があるものです。操作の際は、必ず適切な保護具装着の上、実施することをお願いします。

・長時間の漬け置きは、すすぎ忘れによる、溶液乾固、析出、汚れの固着等のリスクを伴います。

最悪の場合セルに不可逆的なダメージを与えるリスクもあります。操作にあたりましては基本的に自己責任の下実施下さい。

・汚れの具合に依りますが、長くて1時間程度を限度に溶液交換を行って下さい。Overnightでの漬け置きは絶対におやめ下さい。

<使用する物品>

・洗浄液

・ガスタイトシリンジ

・Cleaning Device(VP-ITCをお使いのお客様の場合。装置付属のThermoVacで、サンプルセル内への送液が可能な洗浄ツール)

・コスメティックシリマー(100円均一ショップで購入可能な化粧品の小分け用シリンジ。先端がフラットにカットされているもの 20 mLの物が使いやすいです)

<用いる洗浄液および条件について>

・14% DECON90水溶液(タンパク質、その他汚れに有効、通常のメンテナンスで用いる推奨洗浄液。最大漬け置き温度60℃、1時間を超えないこと)

・5N-NaOH水溶液(タンパク質、ペプチド、核酸等に有効。最大漬け置き温度60℃、1時間を超えないこと)

・50% DMSO水溶液(疎水性の高い低分子化合物を使用した場合に有効。最大漬け置き温度50℃、30分を超えないこと)

この他に用いた実績のある洗浄液:

・希釈した家庭用食器用洗剤(2倍から5倍程度。脂質、その他油系に有効。油汚れを落とす謳い文句が書いてあるもの、最大漬け置き温度50℃、30分を超えないこと)

・2倍希釈したパイプ洗浄剤(色のついた物質や汚れ、タンパク質等、パイプユニッシュPro、最大漬け置き温度50℃、30分を超えないこと)

・1%クエン酸(酸に溶解する汚れ、Ca, Mg等をBuffer中に含むサンプルをお使いの場合等、 最大漬け置き温度50℃ 30分を超えないこと)

・1% Zymit(タンパク質分解酵素入りの洗浄液。原液を購入し、メーカー指定の濃度に希釈して用いて下さい。最大漬け置き温度25℃ 12時間を超えないこと)

<洗浄操作>

1)Sample/Referenceの両方のセルから超純水を除きます。Reference cell plugは取り除きます

2)ガスタイトシリンジを用いて洗浄液を両方のセルに充填します(セルにサンプルを充填する際と同じ要領で行って下さい)

3)ゆっくりとポンピング操作を行い、セル全体に洗浄液を馴染ませます

4)一度両方のセルに入った洗浄液を全て捨てます

5)もう一度洗浄液を両方のセルに充填します(あふれ出た余分な洗浄液は可能な限り取り除いて下さい。サンプル充填時と同じ要領です)

6)セル温度を目標温度に設定します

7)セルにゴミが侵入しない様、ペーパータオル等をセルポートにかぶせます

8)汚れの程度により、10分から、最大1時間程度漬け置きを行います

9)漬け置きが終わりましたら、セル温度を25℃に戻します(注意:洗浄液が暖かい状態でガスタイトシリンジを入れますとシリンジが破損したり、セルから内容物が飛び出る恐れがあります)

10)ガスタイトシリンジを用いて、常温に戻った洗浄液を慎重に抜き取ります、その後すぐにガスタイトシリンジを十分な超純水ですすいでください

11)ガスタイトシリンジを用いて、両方のセルに超純水を入れ、ゆっくりとポンピング動作を行います。数回アップダウンし、セル全体をすすぎます

12)少なくとも、Sample/Referenceのそれぞれを、トータルで50-100 mL程度、超純水ですすぎます、Sample cellについてはCleaning Deviceによる洗浄が便利です

13)Sample cellのカップ部分、Reference plugが挿入されている部分にも洗浄液がついていることがあります。適宜すすぎをお願いします

14)ガスタイトシリンジのニードル部分をセルへ挿入する際はゆっくりとお願いします。先端の金属でセル底面を勢いよく突きますとセル表面に傷がつき、ノイズや最悪の場合故障の原因となります。すすぎの際に注入する量はセルポートから溢れない程度でお願いします

15)すすぎが完了しましたら、両方のセルに超純水を充填して下さい

<洗浄操作時のご注意点>

・両方のセルを十分な超純水ですすぐことをお願いします。Sampleセルのみになりますが、ThermoVac/Cleaning Deviceを用いることも有効です。

ただし、Reference cellは全くすすぎが出来ませんので必ずReference cellも同様にすすぎをお願いします。