カロリメーターマスターへの道 Vol.2 つづき
等温滴定型カロリメーター iTC200を使ってみよう!
※この記事の最後では資料をダウンロードいただけます。
いよいよ仲村さんは、深田先生のお部屋を訪ねました。
深田先生!お久しぶりです!!お元気でいらっしゃいましたか?
仲村さん、よくいらっしゃいましたね。お待ちしていましたよ。何年振りかしらね?うふふ。ITCとDSCを使うことになったそうですね。


会社でiTCを使って測定をしていたのですが、なかなかうまくいかなくて・・・なので、質問をまとめてみました。
あらあら準備がいいですね。では、拝見しましょうか。
深田先生は仲村さんのメモを確認しました。
仲村さん。ずいぶんシステムを使っていなかったのかしら?
DPが高いのと、ベースラインのノイズレベルが上がる、というのがそのサインです。
リファレンスセルの水を交換しても改善されなかったんですよね?
まずは徹底的に洗浄をしたほうがよいと思いますよ。
それと、これからも、洗浄はとても重要になります。
私の場合は測定毎に洗剤と超純水でセルやシリンジを洗浄するようにしています。

おそらくそうだと思いますよ。20 % Contrad 70または14 % Decon 90でセルを温めながら洗浄すると良いでしょう。取扱説明書に記載があったと思いますよ。
あ、これですね!(マニュアルP41と(注1))
(注1)VP-ITCをご使用になられている方はマニュアルP.45.をご参照ください。ジャケット温度を変更するには、Thermstat/Calib.タブ中のSet Point(℃)に温度を入力し、Set Jacket Temp をクリックします。
先生、DPが低く出た場合は気泡がサンプルセルに混入していると思うのですが、セルに気泡が入らないようにするにはどうすればよいですか?
溶液を注入する際、シリンジに少し多めに(350 μL)溶液を取って、セルの底にできるだけニードルを近づけてゆっくり入れるようにすると良いですよ。たいていの場合、これで問題ありませんが、少量の溶液、そうね、50 μL前後でポンピングしてセルの中で対流を起こして気泡を押し出すと良いでしょう。
セルまでの導管の液量がだいたい50 μLなので、それ以上でポンピングしてしまうと、せっかくセルから気泡を追い出したのに、再度気泡を入れてしまうことになるから注意が必要ね。
あとは、シリンジをセルの中で上下にゆっくり振ることによって、セルと導管の境目に滞りがちな気泡を抜けやすくしてあげるとよいでしょう。
それと、大事なこと!溶液の温度が測定温度よりも低い場合は測定温度に近い温度まで予め戻しておきましょう。サンプルの脱気はiTC200の場合、基本不要(注2)とメーカーでは言っているわね。
測定を繰り返していくうちに、コツを捕まえられるようになりますから、根気強く続けてくださいね。
(注2)VP-ITCをご使用の方は脱気を行ってから測定してください。
そう、リファレンスなんですが、どうして超純水で問題ないのですか?普通実験だとbufferは揃えたほうがよいと思うのですが。
リファレンスセルは、サンプルセルと同じ熱容量の溶液を入れて外部の温度変動をキャンセルさせるようにする必要があるの。水の熱容量 は非常に大きいのと、溶液の中でもっともコンテンツが高いのは水でしょう?だから、リファレンスセルは緩衝液でなくても水で良いのですよ。
リファレンスの水は1週間に1度、交換すれば問題ないけれど、そうとは言え、わずかずつ蒸発するので、もし高温での測定が続く場合は都度入れ替えるなどが必要ね。
なるほど、そうなんですね。
先生、最後にもう1つだけいいですか?
1つと言わず、何でも聞きますよ。
ありがとうございます! 実際にサンプル測定する際の濃度設定なのですが、マニュアルによるとC値を基準にとかいろいろ書いてあるんですが、なんだかイメージがつかめなくて。
補足します。C値とは、解析を行うにあたり、良好なシグモイドカーブを描かせるために必要なセルサンプル濃度を決定する際の指針となる値です。



ただ、一般的に言うと、タンパク質濃度は10 μM程度がよく用いられているけれど、結合の強さに応じて増減するので注意が必要です。
C値を基準に濃度を設定すると、アフィニティが高い相互作用の場合、セル濃度が非常に低くなってしまいます。
例えば、10 nMの解離定数をもつサンプルだった場合、C値を5に収めようとすると、
50 nMがセルの濃度、と算出することができるでしょう?
でも、実際にその濃度で測定を行おうとすると、十分な熱量が得られない可能性があるので、少なくとも1 μM(注3)は確保して測定することが好ましいことになるの。
ITC測定には正確な濃度情報もとても重要だけど、それは今度お話するとして、とりあえずはタンパク質濃度は280 nm付近の紫外吸収スペクトルから決定するのが良いでしょうね。
では実際に測定してみましょう。まずは練習としてCaCl2とEDTAでやってみましょう。
(注3)相互作用によって得られる熱量変化はそれぞれ異なります。1 μMで十分なときもありますし、変化が小さい場合には、セル濃度をあげて測定する必要があります。
次回は実際に得られたデータを見ながら、データを見るポイント、トラブルが起こったときの対応方法などについて学んでいきます。
こ期待ください!
こちらのブログを執筆するにあたり、よりリアリティを持たせるために、実際にITC測定を行っているところを深田先生に見せていただきながら取材をしました。
その際、使用されていたシステムは1987年に販売を開始したOMEGAというシステムでした。30年近く前のシステムが、今でも現役で動いているのには本当に驚きました。実際に動いているのを見るのは、私も初めてでした。使用しているPCはWindows 3.1 !? USBポートなんてもちろんありません。でも、最も驚いたのが、システム内のセルは一度も故障をしたことがなく、修理をしたのは攪拌モーターとPCのボードだけだった、ということでした。
深田先生はシステムの性質を理解され、マニュアルには記載されていない、独自の使用方法を編み出されていました。そしてやはり、測定後の洗浄を徹底されていらっしゃいました。
先生から教えていただいたノウハウを交えながら、今後も皆様に情報をお伝えしたいと思います。
MicroCal ITCの歴史については、マルバーン英国本社のブログに掲載されています。マルバーン英国本社のブログ material talksはこちら!