カロリメーターマスターへの道 Vol.9
自力でトラブルシューティング(DSC編) その1
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ここに登場する人物とストーリーはフィクションです。
テクニカルに関する内容に関しましては、大阪府立大学客員研究員 深田先生にご助言をいただいております。
ページ下の「ダウンロード」ボタンより、本文中に登場する、
「DSCトラブルシューティングまとめ」と「VP-DSC 複数ピークがある データ解析手順」がダウンロードできます。
【前回までのお話】
丸番製薬の仲村さんは、深田先生の下でVP-DSCでRNase Aの測定、解析について習得できました。
【今回のお話】
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仲村さんは自社サンプルの測定を行うことになりました。 |
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未知のサンプルの測定は始めてだけど、注意事項を遵守すれば大丈夫よね。 |
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タンパク質の測定でパラメータ設定の目安がない場合は、こちらに示した条件での測定を試みてみてください。得られたデータに応じて、スキャン速度を上げたり、Filter periodを調整したりしてみてください。 | ![]() |
仲村さんは、25 – 85℃、スキャン速度を60℃/hにして測定を行い以下のデータを得られました。 |
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コントロール測定の再現性もOK。ベースラインの傾きも近似しているし、サンプルデータはコントロールデータよりもCp値が下になっているのでこちらもOK。Scan5をコントロールデータとして使用して解析をする、と。 | ![]() |
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うーん、もう少し高温まで測定したほうがベースラインは引きやすかったかもしれないわ。次回は100℃まで上げて測定をしてみよう。 続いてベースラインの差し引き。ΔCpは不要なので、Subtract BaselineはYesを選択。 |
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目的はピークトップだから、ToolsからのPick Peaksで十分ね。 | ![]() |
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補足します。前回までの解析では、フィッティングによるものとIntegrate from 0を使った方法をご案内していました。ただし、Integrate from 0では複数のピークトップを求めることができません。ただ単にピークトップだけを求めたいときには「Pick Peaks」という機能を使うと便利です。 なお、フィッティングを選ぶか、ピークトップを選ぶかは、測定する方の目的に因るため、どちらが正しい、ということではありません。 |
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【補足】Pick Peaksウィンドウの見方 |
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Search RectangleとMinimum Heightの数値をうまくコントロールして、ピックトップを見つけられるようにします。 |
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ついでだから、フィッティングでもパラメータを求めてみようかしら。2つピークがあるデータをフィッティングするのは初めてね!モデルはNon-2 State: Cursor Initを選んで、Number of peaksは2と入力。 |
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ピークトップをダブルクリックして初期値を与えてOK。 | |
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あら?初期値の緑色の線がずれてしまったわ!ソフトウェアのバグかしら?? |
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とりあえず200 Iterをクリックしてフィッティングをかけてみよう。 | |
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Errorが出たわ、、、何でかしら、、、 |
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仲村さん。どうされましたか? |
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先生、フィッティングがうまくいかないんです。 |
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そのようですね。以前私も同じエラーが出たことがあったのですが、その時はサンプル濃度の単位が間違っていましたよ。サンプルの濃度はどれくらいでしたか? |
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1.44 μMです。 |
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私と同じトラブルですね。もう一度データを開きなおして、Normalize Conentrationボタンを押してみてください。 |
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はい。あ!単位がmMになってます。 | ![]() |
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そうですね。濃度を直して解析しなおしてみてもらえますか? |
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あっ!今度は初期値がセットしたところになっているわ。 | ![]() |
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でも、フィッティングをするとまたErrorが出てきたわ。Tm2をfixして解析、と書いてあるわ。 | ![]() |
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補足します。このようなエラーが出た場合、OKをクリックします。続いて、メニューバーのDSCからモデルを選び、これまでと同様にフィッティングの作業を実施します。 |
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先生、フィッティングできました! | ![]() |
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そのようですね。でも仲村さん。フィッティングの状態はどうですか?1つ目のピークがちょっとずれていませんか? |
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そうですね。 |
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ドメインはいくつあると考えられていますか? |
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上司に確認してみます。 |
仲村さんは上司の田中さんに電話をしました。 |
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田中さん。先日お預かりしたDSC用のタンパク質ですが、ドメインは2つでよろしいですか? |
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え?ドメインごとにTmが違うのまでDSCでわかるのですか? |
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はい。今解析したのですが、明らかに2つのピークが得られました。そこで解析を行ってみたのですが、2つのピークで解析をするとフィッティングがあまり良好でなかったんです。 |
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なるほど!実はドメインは3つあるんですよ。それも見極められますかね? |
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ドメイン3つですね。試してみます。 |
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結果、期待していますよ! |
仲村さんは、ピーク数を3つにして解析を試みることにしました。 |
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先生。ドメイン3つらしいです。でも、どの辺に3つめのピークがあるのか、見極めが難しいです。 |
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2つのピークでフィッティングしたデータを見ると、1つめのピークの前半にピークの肩が見えませんか?右のグラフの赤い矢印で示したあたりをピークトップとみなして解析してみてはいかがでしょうか? | ![]() |
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なるほど。こんな感じでしょうか? | ![]() |
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あと、変数は少なくした方が計算しやすくなりますから、Tm2とTm3のVary?を固定したほうがよいですね。 | ![]() |
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わっ!フィッティングがよくなりました!Chi-sqr is not reducedが見えたので、Tm2とTm3も変数にして、、、 |
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すごいっ! |
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仲村さん。なかなかよいデータではないですか!それに、ITCのときよりは、すんなりと測定ができるようになりましたね。 |
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そうですね。気泡の混入がなければ、測定そのものはシンプルだったので、ITCのときよりは楽でした。でも、ITCのときに、溶液の充填の方法や、なぜ気泡が入るとDP値が下がるか、などを理解できていたことが役立ったと思います。 |
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そうですね。同じ「熱」という指標で見ていますから、データを見たときに何が起きているのか?をイメージできることはとても大切だと思います。カロリメーターは何でも測定できる魔法のツールではありません。溶液中で起きている熱量変化を単純に測定しています。反応はサンプルの発熱だけでも吸熱だけでもありません。緩衝液や外気の影響なども十分考慮する必要がありますよね。 |
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はい、肝に銘じておきます。 |
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では、ちょっと休憩した後に、よくあるトラブルについてまとめてみましょうね。 |
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よろしくお願いします! |
以下の「ダウンロード」ボタンより、
「DSCトラブルシューティングまとめ」と「VP-DSC 複数ピークがある データ解析手順」 がダウンロードできます。
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