mRNAワクチンの熱安定性を理解する

mRNAワクチンはワクチン開発に革新をもたらしました。多くの科学者が何十年にもわたってmRNAワクチンに取り組んできましたが、SARS-CoV-2 mRNAワクチンの成功は、このモダリティをニッチであった産業から飛躍的な成功へと導きました。わずか2年足らずで、これらのワクチンが184か国で何十億回も投与され、これは歴史上最も成功したワクチンキャンペーンとなっています。

mRNAベースのワクチンにおける熱安定性の重要性

mRNAベースのワクチンには大きな可能性がありますが、このタイプのワクチンを使用する場合、克服しなければならない大きな課題がまだあります。その一つが、これらのワクチンが非常に温度に対する感受性が高い、ということです。

mRNAワクチンの熱不安定性は、mRNAそのものや送達ベクターが原因である可能性があります。現時点で明らかなことは、室温で容易に切断するmRNA分子の固有の不安定性があります。これが起こると、mRNAが分解し、ワクチンの有効性が大幅に低下します。そのため、ModernaおよびBioNTech / Pfizer SARS-CoV-2ワクチンは、ライフサイクル全体を通じて-20°Cまたは-80°Cに保管されています。

この低温管理は、グローバルなワクチンプログラムにおけるサプライチェーンと管理に課題を与えます。ワクチンの輸送と保管に高いコストがかかるだけでなく、適切な輸送と電気インフラが不足している地域でのワクチンの供給と配布が大幅に制限されます。したがって、熱安定性は、mRNAベースのワクチンで克服するための最も重要な課題です。

しかし、それだけではありません。さまざまな条件下でのワクチンの安定性を測定するだけでなく、熱安定性データは、製剤やバッファー交換などの主要な製造ステップをモニターし(一貫性を確保するのに役立ちます)、さまざまな製造ロットの品質を比較する際にも不可欠です。

では、mRNAベースのワクチンの熱不安定性に対処するためのツールは何でしょうか?

示差走査型カロリメトリ―試験によるワクチンの安定性のモニタリング

示差走査型カロリメトリ―(DSC)は、溶液中の生体分子とウイルスの構造特性評価と安定性プロファイリングのための確立された手法です。ワクチンのエンタルピー変化(ΔH)、変性中点温度(Tm)、および熱安定性の情報を取得します。

DSCテストは、ワクチンの研究、開発、製造におけるさまざまなアプリケーションに役立ちます。DSCを適用すると、ワクチンの安定性プロファイルのより明確な全体像を構築し、他の分析方法とともに、安定性を示すアッセイの開発をサポートすることにより、ワクチン開発のリスクを軽減できます。輸送と保管の過程でこの測定を繰り返すと、ワクチンの構造的安定性に影響を与える要因を特定できます。たとえば、DSCは、mRNA分子をカプセル化する脂質ナノ粒子の高次構造に対するさまざまな保存条件の影響を分析できます。(詳細については、最近公開された査読付きの論文をご参照ください。)

DSCには、ワクチンの安定性をテストするための理想的な方法となるいくつかの利点があります。1つは、サンプルの安定性をラベルフリーで評価します。蛍光ラベルや専用試薬を使用せずにラベルフリーでサンプルを測定できるため、非常に便利です。さらに、DSCのデータ取得は分光法を用いないため、溶液の濁度やバックグラウンド蛍光などの光学的アーティファクトの影響を受けません。これにより、ワクチンの熱安定性をテストする方法としてのDSCの信頼性が高まります。

mRNAベースのワクチンの不安定性を克服する

mRNAベースのワクチンは、感染症に対するワクチンや複数の疾患に対する免疫療法の真のブレークスルーです。しかし、SARS-CoV-2ワクチンの展開であったように、mRNAベースワクチンの世界的な採用には、高度に組織化された冷蔵インフラが必要です。したがって、mRNAベースのワクチンの熱安定性を評価することは、それらの開発と広範な使用を進めるために重要です。

DSCは、ワクチン開発者と製造業者がより安定したワクチンを作成するのに役立つ効果的な方法です。開発初期に適用すると、mRNAベースのワクチンの熱不安定性の課題を克服し、コミュニティ全体を守るワクチンとしての可能性を実現するに役立ちます。

本ブログは、2022年1月19日(水)にグローバル版Materials Talksで公開された英語記事「Understanding mRNA vaccine thermal stability(ナタリア・マルコヴァ)」の翻訳です。

【参考情報】