カロリメーターマスターへの道 Vol.4 ITC実験を至適化できる力をつけよう!つづき

次はタンパク質と化合物の測定をやってみよう。アフィニティはとりあえずわからないから、タンパク質を10 μM、化合物を100 μMにして通常通りの方法で測定してみよう。 

シグモイドカーブを描いていないわ。濃度設定を誤ったのかしら、、、コントロールの希釈熱は各滴定でほぼ同じ。DP値としては0.015 μcal/secだから、小さいわよね。それに、サンプルの最後の滴定時の熱量よりは小さい。つまり、サンプルの発熱量が非常に小さい、ということね。これをただ差し引きするだけでよいのかしら・・・

仲村さん、お困りのようですね。

深田先生、そうなんです。タンパク質と化合物の測定を行ったのですが、シグモイドカーブを描いていないのと、得られている熱量が非常に小さいみたいなんです。

そのようですね。仲村さん、測定前にシミュレーションソフトウェアを使ってみましたか?

あ、以前先生がお話されていた、iTC200のコントロールソフトウェアに付属しているものですね。すみません、使っていません・・・

マニュアルに記載がありますよ。P.39.をご覧になればいかがかしら?

はい、確認してみます。

それに、今回測定されたサンプルはアフィニティが比較的弱いもののようですね。

そうですね。おそらく数 μM程度だと思っています。

濃度設定はどうされましたか?

タンパク質を10 μM、化合物を100 μMにして行ってみました。

では、まずKDを5 μMと仮定してシミュレートしてみたらどうなりますか?

あ、シグモイドを描いていますね。ただ、濃度が私が使用したものよりも高めに設定されています。

そうですね。これが、シミュレーションソフトウェアが推奨した測定濃度ですね。では、仲村さんが使用した濃度でシミュレートしてみたらどうなりますか?

タンパク質を10 μM、化合物を100 μMなので・・・

あ!シグモイドカーブを描いていません!!

そうですね。今回のように、もし予め予測されるKDが分かっている場合は、実際に測定を行う前に、このようにシミュレートして確認してみるとよろしいと思いますよ。

なるほど。シミュレーションソフトは便利ですね!

ではここで質問です。これは、Bovine Carbonic Anhydraseに、それと相互作用する低分子、SulfanilimideとAMBSAをそれぞれITCで測定したデータです。このデータを見て、どのように思われますか?

上のSulfanilimideの図はなんとなくシグモイドカーブを描いているようですが、下のAMBSAの図は直線的で、シグモイドカーブは描けていないような気がします。

そうですね。では、シグモイドカーブを描かせるようにするためには、どうすればよいと思いますか?

うーん・・・さっきは濃度を下げたことでシグモイドカーブを描けなくなったので、濃度を上げればよいのでしょうか?

そうですね。ちなみに、SulfanilimideのKDはおよそ8 μM、AMBSAは10 μMと言われています。

シミュレートしてみればいいですね。

前の図にある濃度では、十分なシグモイドカーブが描けない濃度設定だった、ということですね。でも、先生。シミュレーション結果ではセルの濃度が比較的高めに設定されています。この濃度が調製できない場合はどのようにすればよいでしょうか?

仲村さん、C値の設定範囲を覚えていらっしゃいますか?

設定範囲?

マニュアルをご覧になってみてください。どのような範囲に収まることが望ましいと書いてありましたか?

あ!?5~250が理想的で、1~1000であれば許容範囲、でしたね。(日本語簡易マニュアルP.7~8をご参照ください)

そうですね。シミュレーションソフトウェアではC値も変更できます。また、実際に調製したサンプル濃度で測定するとどうなるか?ということをシミュレーションしてもよいと思いますよ。

なるほど!実験デザイン、ということですね。

その通りです。では仲村さん。今後、さらにアフィニティが低い化合物の測定を行うかもしれないので、その測定と解析のポイントをお教えしますね。

はい!よろしくお願いします!!

このデータを見て、仲村さんはどう思いますか?タンパク質とフラグメントの相互作用なんですが・・・

シグモイドを描いていないので、濃度を上げて測定を行ってみます、ではないんでしょうか?

この実験はセルのタンパク質濃度を30 μM、フラグメントは3 mMで測定をした結果だとすると、どうなりますか?

え?フラグメントの濃度がそんなに高いんですか?それに対し、セルのタンパク質の濃度はそれほど高くないですね・・・

それではまた、マニュアルに戻ってみましょう。 P.9.をご覧になってください。アフィニティが 100 μMより弱いものを想定した実験系の組み方ですね。

シグモイドを描いていませんね。

そうですね。アフィニティが非常に弱い場合、シグモイドカーブを描かせようとすると、濃度設定に無理が生じてしまう可能性が高いんです。シミュレートしてみていただけますか?

うわっ!  1 mMのタンパク質なんて絶対無理です!!

そうですね。なので、このような場合は、マニュアルにあるように、タンパク質の濃度を予測されるKDの1/5~1/100、かつ10 μMは確保するようにセットし、滴定サンプルはKDの10~50倍で数 mMにして、測定後半の滴定で、タンパク質が完全に飽和する条件になるようにする必要があります。さきほどのデータのノーマライズしたプロットデータのモル比の横軸を見てください。大きな値が出ているのがわかりますよね?

はい。でも、それではシグモイドになりませんが・・・

そうですね。今のこの状態では、結合比もエンタルピー変化も求められない状態です。そこで、解析にひと工夫加える必要があるんです。

ひと工夫??

はい、そうです。マニュアルにも記載がありますが、「結合比の値を仮定して」解析を行います。測定しているサンプルが1:1の結合を示すのであれば、理論的に結合比は「1」になると考えることができますよね?


まぁ、理論的には・・・


結合比はシグモイドカーブの中点にあたるところですから、フィッティングを行う際の初期値のところに「1」を定数として与えて解析を行えば、フィッティングをかけることができます。実際には、Fitting Sessionのウィンドウが出たらNのValueに「1」と入力し、変化を意味する「Vary?」のチェックを外すことで定数としてセットすることができます。そうすると解析ソフトウェアでは、得られているカーブのシグモイドカーブの一部として使用し、モル比が1になっているところを変曲点として、シグモイドカーブをシミュレートすることができるようになります。結果として、KDΔHが求められることになるんですよ。


そうなんですね!


ただ、ここではあくまでもサンプルの濃度が100%活性を保持していることが前提になっていますから、注意してくださいね。


はい!

こうして仲村さんは、実際のサンプルの測定を行うことができました。サンプルそれぞれの性質にあったサンプル調製、測定条件、そして解析方法があることを学ぶことができました。イレギュラーな反応が得られたとき、そこから無理に解析を行おうとするのではなく、本来どのようになるべきなのか?そうならなかった時に、どのような理由が考えられるのか、考えてみてください。
そこで次回は、イレギュラーなデータが出たときの解釈と対応方法についてご紹介する予定です。

【ブログ後記】
ITCのお問合せで何が一番多く来ると思われますか?答えは「滴定シリンジの洗浄時に溶液が流れない」なんです。実はこちらの対処法については、カロリメーターマスターへの道のvol.2でご案内しています。

滴定シリンジのガラス部分の破損、フィルポートアダプターの接続不良、O-ringの劣化などが挙げられておりますが、最近、別の理由で不具合を起こしているケースが見受けられるようになりました。

それは、Washing Module背面にあるフィルター詰まりです。

このフィルターを交換することで、不具合が解消されるケースがあります。「MicroCal iTC200滴定シリンジに洗浄水が流れないときの対応方法」の指示通りで症状が改善されない場合、こちらのフィルターを交換してみてください。なお、フィルターはシステム納品時に同梱されております。

ただし、システムが納品された時期によって、こちらのフィルターがWashing Nodule内部にセットされており、写真のようにフィルターが見えない場合があります。その場合は、お客様による交換が難しいため、弊社技術担当者にご連絡をいただければと存じます。


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