カロリメーターマスターへの道 Vol.9
自力でトラブルシューティング(DSC編)その2
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ここに登場する人物とストーリーはフィクションです。
テクニカルに関する内容に関しましては、大阪府立大学客員研究員 深田先生にご助言をいただいております。
ページ下の「ダウンロード」ボタンより、
本文中に登場する、「DSCトラブルシューティングまとめ」と「VP-DSC 解析手順」がダウンロードできます。
(その1からの続き)
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これまで仲村さんが経験したトラブルにはどのようなものがありましたか? |
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気泡の混入でした。 |
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そうでしたね。気泡は手技的な問題もありますが、DSCでトラブルが起きた際、最も多い原因はセル汚れだ、と言われているんですよ。 | ![]() |
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そうですね。加熱してタンパク質を変性させている訳ですから、セル内部にタンパク質が吸着してしまう可能性もありますよね。 |
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セルの材質はタンタルと言って、比較的丈夫で非特異的な吸着が少ないといわれていますが、DSCの測定を成功させるためには、セルをいかにきれいに保つかが、重要です。洗浄も、ただ水で洗うだけではなく、14% Decon90(または20% Contrad70)を用いて、必要に応じてこれらの洗剤をセルに入れて50~60℃で1時間程度加熱するなどが必要です。 |
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補足します。弊社のホームページで、より強力な洗浄として水酸化ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムを使用した方法をご案内しております。14% Decon90(または20% Contrad70)で改善されない場合、こちらの方法をお試しください。以下のサイトより資料をダウンロードすることが可能です。(ダウンロードにはユーザー登録(無料)が必要です) |
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それと、定期的に超純水を用いたシステムチェックも必要ですね! |
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はい、その通りです。 |
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補足します。システムチェックの条件は以下をご参照ください。入力。 |
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では、トラブルとしてよくある現象をここで見てみましょう。 | ![]() |
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Cp値が下がる現象については経験したことがありますが、ベースラインの再現性が悪かったり、ノイズやレスポンスのドロップオフは経験したことがありません。 |
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仲村さんの場合、Cp値が下がったのは気泡の混入が原因でしたね。ではここでそれぞれの原因について考えて見ましょう。 |
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ベースラインの再現性が悪い場合、やはり気泡の影響は無視できません。それ以外の原因も、結局はセルの汚れに起因することが多いです。 |
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もちろん、熱履歴のことも忘れてはなりません。特に最初のデータは、それ以降のデータと比較するとベースラインが安定しにくい、ということはよろしいですね? |
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はい、大丈夫です。サンプル測定前に3回以上、コントロールのデータを取得して、ベースラインの安定化を図ることが重要ですね。 |
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その通りです。ただ、溶液を充填しなおしても、何度スキャンを行ってもベースラインの再現性が悪い場合は、セル汚れに起因した気泡の混入が考えられます。久しぶりにシステムを動かす場合などは、いきなりサンプルから測定せず、まずは洗剤による洗浄を行ってから、システムチェックを兼ねて水測定を行い、ベースラインに問題がないか、確認するとよいでしょうね。 | ![]() |
あともう1つ注意する点としては、タンパク質そのものが不安定な場合、セルに吸着しやすいこともありますので注意が必要ですね。 |
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Cp値が低く出る原因は以下が考えられます。 |
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気泡やセル汚れが原因なのは大丈夫ですね。 |
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はい、でも緩衝液がミスマッチの場合、というのは、まるでITCのときのようですね。 | |
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確かに違う熱量になってしまうという意味では似ていますが、ここで関わってくるのはプロトネーションエンタルピー変化や熱容量の影響なので、混合熱のようなものではありませんね。 |
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プロトネーションエンタルピーに熱容量、ですか、、、 |
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あらあら、お忘れですね。以前(vol.7)リファレンスセルがITCのように水ではなくて緩衝液でなければならない理由をご質問されましたよね? |
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はい、、、 |
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復習しましょう。 そもそも水と緩衝液では熱容量の大きさが異なります。これは、溶液中に含まれる水分子の量の違いと考えることができます。また、サンプル溶液と緩衝液でも熱容量が異なるのは、サンプル溶液にはタンパク質の排除体積があるからでしたね。そのため、サンプル測定時のCp値はコントロール測定よりもレスポンスが下に出なくてはならない訳です。熱容量の大きさの違い以外にも、水と緩衝液では温度依存性が異なるため、ベースラインの傾きが異なってしまいます。ITCは「等温」という環境であるため、熱容量は常に変わらないことから、リファレンスセルに超純水を入れても問題がなかった、ということになります。 |
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緩衝液がミスマッチだとどのようなデータが得られますか? |
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こちらに示したような、本来サンプルの方がレスポンスが下になるはずなのに上に出てしまったり、ベースラインの形状が異なってしまいます。 | ![]() |
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続いてノイズについて考えて見ましょう。基本的にはこちらもセル汚れが原因のことが多いです。ただ、測定方法を工夫することで対応できる場合もあります。特に、サンプルの濃度が低い場合や、熱が出にくいサンプルのときなど、濃度を上げてみたり、Scan rateを上げたりすることで、SN比が改善されることもあります。ただ、Scan rateを上げた場合は、Filter Periodを細かく取らないとデータを取得し損ねることがあるので注意が必要です。必要以上に低いFilter Periodを使うことは不要です。細かく取り過ぎると却ってSN比が悪くなるので、こちらも注意が必要です。 | ![]() |
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Scan rateを上げると得られるレスポンスが高くなり、見やすくなる一方、反応が追いつかないような場合、データがゆがんでしまうようなことがあります。また、ピークが複数あるようなサンプルの場合、各々のピークを識別できなくなる可能性もあるので注意が必要です。 |
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バランスが重要、ということですね。 |
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その通りです。 |
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最後にレスポンスのドロップオフ、ですね。どのようなときにこのような現象が起きるか覚えていらっしゃいますか? |
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はい、凝集が起きたときの発熱反応、ですよね? |
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そうですね。このような現象が起きたら、すぐに測定を止めてください。セル汚れの原因になります。なお、すぐにと言っても高温で圧力キャップを開けるのは危険ですから、30℃くらいまで下がったら直ちに、取扱説明書の「汚れがひどいときの洗浄方法」の指示に従い洗浄を行ってくださいね。 |
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補足します。凝集が起こるサンプルでも条件を変えることで測定が可能になる場合もあります。例えば、 サンプルの濃度を下げる。また、緩衝液の種類、pHや塩濃度を変えたり、scan rateを速くして、高温にさらされる時間を短くして対応する、なども考えられます。
もう1つの対応策として、セルの形状がキャピラリーのDSCを使用する、という方法があります。同じサンプルを測定しても、キャピラリーセルではドロップオフが起きていないことがお分かりいただけると思います。 |
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とにもかくにもセルの洗浄、そして気泡の混入をいかに防ぐか、がDSCの測定では重要、ということですね。 |
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はい、その通りです。仲村さん、この1年、よくがんばられましたね。使い方を理解されたのですから、今後は使いこなせるようになってくださいね。 |
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はい、深田先生。本当にありがとうございました。今後もご指導のほど、よろしくお願いします! |
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【ブログ後記】 今回でDSCのご案内が最後となりました。ITCと同様、皆様のご研究の一助となればと思い、原稿を作成しておりましたが、いかがでしたでしょうか?また、次回でこの「カロリメーターマスターへの道」も最後となります。「カロリメーター、って難しそう。」と思われていた方が「自分でもできるかも!」と思っていただけるようになれたら幸いです。皆様のご感想、お待ちしております! |
以下の「ダウンロード」ボタンより、本文中に登場した、「DSCトラブルシューティング」と「VP-DSCデータ解析手順」 がダウンロードできます。
(その1でダウンロードできるものと同じです。)
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