SOP Architectを使用した超音波滴定: 湿式試料分散の最適条件の決定

試料の十分な分散を確認することは、粒子径測定メソッド開発のプロセスにおいて重要なステップです。湿式分散では、多くの場合、凝集体を分解するエネルギー的手段として超音波を利用します。しかし、特に経験の浅いユーザーにとって、不要な悪影響は避けながら分散を達成する超音波強度と持続時間の「スウィートスポット」を見つけることは、難しい場合があります。誰もがそう思っていました。Mastersizer 3000+のSOP Architectに超音波滴定を追加することで、湿式試料分散条件の最適化がこれまでになく容易になりました。 

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はじめに

試料の十分な分散を確認することは、粒子径測定メソッド開発のプロセスにおいて重要なステップです。湿式分散では、多くの場合、凝集体を分解するエネルギー的手段として超音波を利用します。しかし、特に経験の浅いユーザーにとって、不要な悪影響は避けながら分散を達成する超音波強度と持続時間の「スウィートスポット」を見つけることは、難しい場合があります。誰もがそう思っていました。Mastersizer 3000+のSOP Architectに超音波滴定を追加することで、湿式試料分散条件の最適化がこれまでになく容易になりました。 

SOP Architectについて

SOP Architectは、Mastersizer Xplorerソフトウェア内のインテリジェントなツールで、湿式分散メソッドを開発します。画面の指示、追加情報へのリンク、自動測定動作を組み合わせることで、ユーザーが最初から最後まで高い品質で試料を測定するメソッドを、自信を持って開発できるようにガイドします。ワークフロー内に8つの異なるステージがある包括的なソリューションで、新たな超音波滴定ステージも含まれています(図1を参照)。

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図1: SOP Architectが使用するメソッド開発ワークフロー

試料分散の重要性 

計算機科学では、「ガベージイン、ガベージアウト」という格言があります。つまり、欠陥のあるデータや低品質のデータからは、同様の低品質の結果が生じるということです。粒子径測定の領域でも、試料分散とメソッド開発に同じ考え方があてはまります。「分散が不適切な試料を使用すると不正確なデータが得られる」のです。 

目的(一次粒子径の測定など)に合った試料分散状態にするためには、試料分散条件が適切で十分に制御されている必要があります。そうでないと、メソッド開発の残りの部分がどれほど完璧であっても、粒子径分布(PSD)の結果は正確になりません。

このことから、超音波滴定の実施が重要であることは明らかです。超音波の照射は、界面活性剤による適切な湿潤化と安定化の確保に並ぶ、湿式試料の分散における重要なステップの1つです。実際、超音波は、ISO 13320:2020附属書Gのフィッシュボーン図に重要なメソッドパラメータとして記載されています[1]。 

湿式試料の分散における超音波の重要性を考慮して、Mastersizer 3000+の湿式分散アクセサリ(Hydro EV、Hydro MV、Hydro LV)には、インライン超音波プローブが設計に組み込まれています。これにより、Mastersizer内で循環している試料に直接超音波を照射してMastersizer Xplorerソフトウェアで制御し、粒子径変化の即時フィードバックを記録できるようになります。さらに、Smart Manager機能により、超音波プローブの状態を追跡できるので、データ品質に影響を与える前に、交換のタイミングを把握できます。 

超音波滴定とは 

湿式試料の最適な分散条件を決定するためのプロセスに、「超音波滴定」と呼ばれる実験があります。これにより、試料を一次粒子径まで分散させるために必要な超音波の出力と持続時間を決定できます。通常は次のステージで構成されています。

  1. 一連の測定を行い、超音波の照射なしに撹拌の影響を評価します。これは、試料の分散に超音波が必要か、攪拌のみで十分かを判断するのに役立ちます。
  2. 設定した強度で既知の持続時間の増分だけ超音波を照射し、各照射の後に粒子径データ(通常はDv10、Dv50、Dv90)を記録します。 
  3. 必要な場合、超音波強度は前のステージの結果に応じて上下に変化します。外部超音波(プローブまたはバス)の使用も検討できます。 

超音波滴定の例を図2に示します。試料は撹拌作用により徐々に分散しますが、試料が高速で分散し始めるのは超音波を照射した場合のみで、粒子径パーセンタイル値が安定するまで分散します。超音波が停止した後は、安定性が維持されています。

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図2: 超音波滴定の例

超音波滴定では、次のような結果が考えられます。

  • 分散達成: 上記のように、超音波の照射により、試料が完全に分散して安定した値に達するまで、粒子径パーセンタイル値が減少します。 
  • 安定: 超音波持続時間に対する粒子径パーセンタイル値(Dv10、Dv50、Dv90)のプロットが平坦で、粒子径の減少が見られない場合は、試料が超音波を使用せずに完全に分散されている可能性があります。
  • 継続的な粒子径の減少: 超音波照射中に、粒子径の継続的な減少が見られる場合は、一次粒子が超音波によって破壊されている可能性があります。この場合、超音波強度を下げることをお勧めします。 
  • 継続的な粒子径の増加: 超音波照射中に粒子径の継続的な増加が見られる場合は、試料が凝集しているか、発熱によりビームステアリングが発生している可能性があります。 

可能であれば、顕微鏡や、静的または動的粒子画像処理装置(Hydro Insightなど)を使用して、試料の分散状態を確認してください。超音波の前後に観察することで、凝集体が分散されたか、破壊によって粒子形状が変化したかがわかります。

この例では、超音波照射中の、リアルタイムの粒子径の変化を示しています。しかし、特に分散媒が加熱されている場合は、超音波照射中に他の影響でPSDが歪む可能性があるので、つねに可能とは限りません。SOP Architectでは別のアプローチを採用しており、まず超音波を照射して、待機時間の後で測定を開始します。 

SOP Architectの超音波滴定方法 

SOP Architectの超音波滴定ステージは、Hydro EVHydro MVまたはHydro LVアクセサリの内部超音波を使用します。 

超音波滴定は、他のテスト(安定性のチェック、スターラー速度滴定、レーザー散乱強度滴定)に追加して選択できます。また、個々の要件に応じて、完全なメソッド開発プロセスの一部としても、個別でも選択できます。超音波滴定を実施しない場合でも、SOP Architectにより、内部超音波条件の定義や外部超音波の詳細の記録が可能です。[滴定の選択]ページの詳細については、図3を参照してください。

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図3: SOP Architectの[滴定の選択]ページ(超音波滴定が選択されていない場合)

滴定に使用されるデフォルトの超音波強度は100%です。しかし、SOP Architectは、超音波滴定を開始する際に、設定を柔軟に調整します。SOP Architectは、試料が「壊れやすい、または粉砕されやすい」かどうかを確認し、このオプションが選択された場合、超音波強度は50%に下がります。[詳細設定]では、さらに強度を下げることもできます(図4を参照)。 

[Figure 4 an250304-ultrasound-titrations-sop-architect.png] Figure 4 an250304-ultrasound-titrations-sop-architect.png

図4: 超音波滴定の設定 

超音波滴定では、分散媒の充填、位置調整、バックグラウンド測定など、通常の測定前手順が開始されてから、予備分散状態の試料を追加するよう指示されます。 

まず、超音波を照射せずに、試料で6回測定します。次に、超音波を30秒ずつ累計210秒まで照射し、各照射後に6回測定します。また、十分放熱させるために、測定前待機時間(水の場合は30秒、非水分散媒の場合は180秒)が経過してからデータを記録します。

超音波滴定の進行中にデータを評価し、各超音波照射後に生成された平均データポイントをアルゴリズムによって測定前後と比較し、安定性を評価します。%RSD値が該当するISO 13320:2020基準を下回る場合、試料は安定であると判断され、SOP Architectは適切な分散条件を推奨することができます。また、SOP Architectは、試料が安定に達したことを確認したら滴定を早期に終了して、ユーザーの時間を節約します。

SOP Architectが超音波滴定中に使用するアルゴリズムは、さまざまな試料タイプでテストされており、粒子径の専門家に同様の条件を推奨したところ100%成功率を示しました(表1を参照)。 

表1: SOP Architectの性能と専門家ユーザーの比較

試料専門家ユーザーアルゴリズム
カオリナイト粘土120s、100%専門家と一致
イブプロフェン懸濁液90s、50%
顔料インク30s、100%
飲料60s、100%
酸化ケイ素120s、100%
歯科用充填材60s、100%
グラファイト安定(超音波不要)
二酸化チタン不適切(外部超音波を推奨)

SOP Architectは、データの評価に続いて以下の結果のいずれかを提示します。

滴定が成功した場合、SOP Architectは試料で使用する超音波の強度と持続時間を推奨します。SOP Architectは、超音波不要とアドバイスする場合もあります。いずれにせよ、こうした詳細は、SOP Architectが終了した後に生成されるSOPに追加されます。

また、SOP Architectが、追加のメソッド開発が必要であることを示し、次に行うステップに関する推奨事項を提供することもあります。図5に推奨事項の例を示します。 

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図5: SOP Architectが超音波滴定後に提供する推奨事項の例

この例では、SOP Architectにより、設定した超音波強度では、試料の分散が不十分であるか、安定に達していないことが確認されました。SOP Architectが提示する2つのオプション:

  • 超音波強度を上げる 
  • または、外部超音波処理を使用して同じものを分散する

 好ましいオプションのチェックボックスを選択すると、追加のサポートが得られます。超音波強度を上げることを選択した場合、超音波滴定の開始ページに戻り、超音波強度は自動的に増加します。

ケーススタディ: カオリナイト 

SOP Architect内の超音波滴定を、さまざまな産業で多く使用される材料であるカオリナイト粘土試料を使用して実施しました。例えば、カオリナイトは製紙業界で充填材として一般的に使用されています。使用するカオリナイトの粒子径は、紙の白色度、印刷適性、および充填剤として使用するコストの効率に影響を与える可能性があります。そのため、凝集体が効果的に分散している状態の粒子径分布を正確に報告することが重要です。 

図6のように、カオリナイト試料は水に分散すると二峰性を示します。超音波なしでは、大きな粒子径で明確な肩がありますが、(Hydro MV内で) 100%の超音波を照射すると凝集体が分散されるのでなくなります。超音波合計持続時間に対する粒子径のプロットを調べると、合計超音波時間120秒までに粒子径の減少が見られなくなることが確認されます。画像処理により、このステージで完全に分散していることが確認されます(図7)。

[Figure 6 an250304-ultrasound-titrations-sop-architect.png] Figure 6 an250304-ultrasound-titrations-sop-architect.png

図6: SOP Architectの超音波滴定をカオリナイト試料を使用して実施した場合の結果(左): PSDのオーバーレイ、右: 合計超音波持続時間に対する粒子径傾向のデータ

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図7: Hydro Insightによって記録された粒子画像。超音波照射前には凝集体が見られる(左)が、超音波を十分照射した後は一次粒子のみが残る(右)

この例では、SOP Architectが自動的にデータを評価するタスクを実行し、100%で120秒が、このカオリナイト試料を分散させるのに最適な組み合わせであるという同じ結論に達しました(図8)。

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図8: SOP Architectによるカオリナイト試料の超音波滴定ガイダンス

要約

SOP Architectの新しい超音波滴定ステージは、メソッド開発のより高度なステージの1つを実行する上で重要なガイダンスを提供します。また、これを包括的なメソッド開発パッケージの一部として使用することで恩恵を受けるのは、レーザー回折の経験が浅いユーザーだけではありません。専門家ユーザーは、独立した実験として超音波滴定を実施することが有用であると気づいています。例えば、外部超音波処理からHydro分散アクセサリの内部超音波処理に変更する場合です。 

しかし、どのような超音波滴定の使い方を計画しても、Mastersizer 3000+のSOP Architectは、以下の点で確実に役立ちます。

  • メソッド開発の標準化または簡素化
  • メソッド開発に最適な手順を組み込むことで、一貫して高い基準を達成
  • 人から人への知識伝達の依存を軽減
  • Malvern Panalyticalの経験をワークフローに組み込む
  • 意思決定によりチームの独立性の向上
  • SOP Playerを使用してレーザー回折測定の自動化に移行

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参考文献

  • [1] ISO13320:2020 – Particle size analysis – Laser diffraction methods

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