千葉大学大学院理学研究院 化学研究部門 生体構造化学研究室の村田先生に、2020年11月5日にプレスリリースされた『膜タンパク質の耐熱化変異体を合理的に設計―立体構造に基づく創薬を促進する—』(*1)についてお話を伺いました。本研究は、科学雑誌『Proteins: Structure, Function, and Bioinformatics』のオンライン版(10 月 16 日付)に掲載され、弊社の生体分子安定性評価装置MicroCal PEAQ-DSC Automated(*2)で取得したデータが報告されております。

【ご研究室の研究概要について教えてください】 
我々の研究室では、創薬標的となる膜タンパク質を大量に調製し、クライオ電顕やX線を用いた構造解析を行い、形状、メカニズムを明らかにすることをメインとしています。製薬メーカーが細胞系アッセイで見つけてきた低分子化合物なども、精製したタンパク質を用いてITCで測定を行って、エンタルピックなのか、それともエントロピックなのかを熱力学的に評価します。 


すると、細胞アッセイでIC50が数μMと弱いものであっても、べたべたと非特異についているのではなく、しっかりと特異的に結合するものを見つけることができます。そういう意味で、タンパク質を精製して評価することはやはり重要だと思います。このようにして結合している化合物の性質も明らかにしたいと考えています。そして、できれば自分たちでも、化合物、中分子そして抗体などもスクリーニングして、薬となる種を探索していきたいと思っています。これらを探索することで、結晶構造解析にも有利になります。

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【今回発表された論文の概要とPEAQ-DSCを用いた経緯について教えてください】
創薬標的となる膜タンパク質は細胞膜内に埋もれて存在するため安定性(耐熱性)が低く、界面活性剤を用いて可溶化、精製すると変性してしまいます。そもそも、構造の揺らぎが大きいため精製そのものが難しいです。そのため、サンプルも取れない、すなわち研究も進まないというのが大きな課題です。

そこで、すでに報告されている水溶性モデルタンパク質を用いた、結晶構造に基づく自由エネルギー計算で、タンパク質の熱安定性をコンピュータで予測する耐熱化変異体設計法を膜タンパク質に適用することを試みました。これまで、膜内部の耐熱化変異体を予測する「エントロピー基盤法」でGPCRの耐熱化をいくつか試み、構造も決めてきましたが、今回の論文では理化学研究所の国島直樹博士との共同研究により膜外部分の耐熱化変異体設計法の開発に取り組みました。(詳細については既出のプレスリリースを参照)

 今回用いたタンパク質は好熱菌由来のロドプシン(以下、TR)で、そもそも耐熱性が高い膜タンパク質です。計算結果から得られた10種類の耐熱化変異体候補が選ばれました。TRの内部にはレチナールという色素があり、構造が保持されている場合は紫色を呈します。ですが、TRが熱変性すると黄色になる性質があります。その性質を利用して、90 ℃における変性の速度論的測定を吸光度計を用いて行い、4種類の変異体が野生型に比べ耐熱化していることが分かりました。

ですが、この手法は色を持つサンプルしか測定することができない、というデメリットがあります。また、測定結果は熱安定性を評価するには間接的、且つ定性的であり、実際に何℃、安定化したのかが分かりません。

そこで、標識が不要で定量的な評価が可能なMicroCal PEAQ-DSC Automatedで変性中点温度(Tm)を取得しました。DSCの結果は吸光度計を用いた測定結果と相関していることが分かりました。また、最も耐熱化した変異体T114Dは、野生型と比べ4 ℃以上、Tmが上昇しました。これらの結果から、水溶性タンパク質で立証した耐熱化変異体設計法を、膜タンパク質にも適用できることが分かりました。


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【PEAQ-DSC測定時に注意したことについて教えてください】
DSC測定では緩衝液の組成を揃えることが重要です。ここで問題になるのが、膜タンパク質の調製には界面活性剤が必要で、DSC測定のためにサンプルを濃縮すると、界面活性剤も濃縮してしまう可能性がある、ということです。測定で使用するリファレンスセル用の緩衝液の組成を揃えるために、同じ限外ろ過膜を用いて濃縮を試みました。

測定前は界面活性剤のミセルのバックグラウンドの影響を懸念していたのですが、意外に問題はありませんでした。今回のTRについては、もともと変性温度が高温側なので、ミセルの影響があったとしても低温側に現れると考えられたので大丈夫なのだろう、と思っていました。でも、熱安定性の低い膜タンパク質も同様に測定したところ、予想したところにシグナルが得られていたので、結構測れるのかな?と感じました。
   

【ご発表された論文の今後の展望についてお聞かせください】
創薬開発で膜タンパク質をターゲットとした場合、細胞アッセイ系でなんとかしようとしていて、精製したサンプルを取扱っているところは少ないと思っています。我々としては、結合を熱力学的にきちんと評価するためには、精製したサンプルを用いる必要がありますので、そういう方向で企業との共同研究を進めています。

 細胞アッセイ系で数μMレンジのIC50を持つ化合物は結構たくさん取れるようなのですが、そのどれがよいのか?を選ぶのが非常に難しいです。特に、細胞に発現させた膜タンパク質に結合する化合物は、膜表面にべたべたと結合して、本来のリガンドが結合するのを妨げているケースが多く、そういう化合物を至適化することは難しいです。一方で、同じ数μMレンジのIC50をもつ化合物の中には、かっちりと膜タンパク質にはまり、特異的な結合をもつものもあり、このような化合物に疎水的な相互作用をデザインすると、アフィニティを向上させることが可能となり、より良い薬の開発につながる可能性があります。

そのため、構造を解いて、性質を調べながら創薬開発をしていくことが、今後重要になってくると思っています。そういう点で、より安定した構造を持つ膜タンパク質のデザインが重要になってくると思います。また、これらを評価するために、膜タンパク質と化合物を混ぜたときのTmの変化を見て安定性をDSCで評価するとか、ITCで結合様式を見ることが重要になってくると思います。

 今回のTRの耐熱化は4 ℃でした。たかが4 ℃と思うかもしれませんが、人間の体温で4 ℃上昇する、ということは死活問題です。創薬標的のタンパク質は、界面活性剤中では30 ℃程度で変性してしまう場合も多く、それが4 ℃安定化することにより精製が容易になります。このアプローチを創薬標的のタンパク質に対し同様に実施し、耐熱化し、精製して化合物の評価、構造解析できるよう展開していきたいです。 

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村田先生、ありがとうございました!マルバーン・パナリティカルは、物性評価のエキスパートとして、今後も皆様のご研究をサポートいたします。
  
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論文のオープンアクセスはこちら

(*1)『膜タンパク質の耐熱化変異体を合理的に設計―立体構造に基づく創薬を促進する—
(*2)生体分子安定性評価装置MicroCal PEAQ-DSC Automated

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