バイオ医薬品開発における物性評価技術:候補選択

バイオ医薬品開発の各ステージにおける評価すべき項目と、それらの評価が可能なマルバーン・パナリティカルの測定技術をご案内しています。こちらのページでは、「候補選択」について詳細をご紹介します。

新規医薬品開発のスタートは、その候補選びから始まる。バイオ医薬品の物性は、そのコンストラクトに大きく依存するため、物性のよいコンストラクトをできる限り初期の段階から考慮して選抜していく 必要がある。コンストラクトの良し悪しを見極める物性評価指標として、マルバーン・パナリティカルの測定技術では粒子径分布、純度、熱安定性、結合活性でサポートする。

粒子径分布による粒子径決定と会合、凝集体の評価(DLS

グロビンのサイズ測定

多くの候補から、簡便、迅速に目的のサンプルをスクリーニングすることは重要である。動的光散乱法(DLS)はサンプル粒子の大きさや分散状態を数分で判断でき、会合や凝集体の混入を迅速に判断できる。下図は横軸はサイズ(流体力学的半径)、縦軸は光強度分布(Intensity(%))を表し、さまざまなグロビンの粒子径分布を測定した結果である。表を見ると、散乱強度基準の値が100%のHbA(青)とHemocyanin(黒)は単一なピークであることがわかる。一方、値が下がっているRice Hb1(緑)やPolytaur(灰)は粒度分布が広く、粒子径の大きな分子が混在していることが分かる。

このようにDLSを用いると、粒子径の決定、およびピーク面積比を見ることで、そのサンプルのモノマー、ダイマーや、より高次のオリゴマーの比率の識別が可能である。 また、DLSは粒子径の情報から分子量を推定することもでき、オリゴマー状態とサンプルに存在する凝集体の割合を決定するために効果的に使用できる。

グロビン名サブユニット既知分子量 kDaピーク平均 nm散乱強度基準 %体積基準 %
Myoglobin117.62.40397.7100
Rice Hb12372.98590.999.9
HbA464.53.305100100
Polytaur121866.77888.399.8
Hemocyanin172012.36100100
→分散安定性を指標とした処方条件が選択可能

複数の検出器を用いた正確な分子量と構造情報の評価(SEC-LS・Vis

apo-RDholo-RDの評価

標準物質を用いた保持容量に基づく従来の解析法では、タンパク質の構造変化により見かけ上の体積が大きくなった場合、分子量が異なっていると誤った判断をしてしまう可能性がある。正確な分子量を求めるためには、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)に光散乱検出器(LS)を接続し散乱光による解析をすることが有効である。下図はCaイオンと結合することで構造が変化するRepeat in Toxin Domain(RD)タンパク質を、 CaCl2あり(holo)、なし(apo) でSECで測定した結果である。holoの状態(実線)とapo(点線)の状態を比べると、apoの方が溶出時間が早いため、従来法ではapoの分子量が約600 kDa、holoが73kDaとなり、apoが凝集状態であると解析される。しかし光散乱を用いた解析では、表の通り、両方の分子量は73kDa程度で同じであった。また粘度検出器から得られる固有粘度を比較すると、apoが0.35 dL/g、holoが0.055 dL/gで大きく異なることが確認できた。これはCaイオンが存在していると、タンパク質が構造を変化させていることを示唆している。

このように、複数の検出器を同時に測定することで正確な分子量・構造情報が得られるため、コンストラクト選択時のミスリードを回避することが可能となる。

パラメータ単位apo-RDholo-RD
溶出容量mL10.413.8
固有粘度dL/g0.350.055
分子量Kg/mol73.673.2
→正確な分子量・構造情報によるコンストラクト選択時のミスリードを回避

複数の検出器を用いた粒子径決定と会合、凝集体の評価(SEC-LS・Vis

抗体の純度評価

散乱光は分子量が大きいほど強く出る傾向がある。SECに光散乱検出器を接続することで、従来から使用しているRIやUV/VIS検出では識別しにくかった、凝集体の領域もはっきりと見ることが可能である。下図はSECに接続したRI検出器と光散乱検出器を用いて、IgGを測定した結果である。モノマー、ダイマーはRIシグナル(赤)、光散乱シグナル(オレンジ)共に確認できるが、凝集体の領域では、RIシグナルに比べて光散乱シグナルの方が大きいことが確認できる(赤矢印)。RI検出器やUV/VIS検出器は濃度に依存してシグナルが変化するので、わずかに存在する凝集体はどうしてもシグナル量が小さくなる。そこに光散乱検出器を加えることで、本当に凝集が存在しているのか、ベースラインの変動なのかを判別することが可能となる。

このようにSEC-LS・Visを用いると、より正確なサンプルの純度が確認できるため、より純度の高い、望ましいコンストラクト選択が可能である。

→純度を指標としたコンストラクト選択が可能

熱安定性比較によるコンストラクト選択(DSC

Fabに変異を導入した抗体12種類の熱安定性比較

タンパク質は変異を入れることで活性や安定性が変化することが知られており、安定性の向上は活性にも影響すると考えられている。示差走査型カロリメトリ―(DSC)は、タンパク質の熱安定性評価を標識なしで行うことができる。下図は破傷風トキソイドを認識する抗体の野生型(WT)と12種類のFab変異導入体をDSCで測定したデータである。横軸は温度、縦軸は変性に必要な熱容量である。 WTのFabのTm(メインピークのピークトップ温度)が78.7 ℃であったのに対し、変異型V11は92 ℃と、13.3 ℃も安定性が向上したコンストラクトであることが分かった。

このようにDSCを用いると、抗体の可変領域のわずかな配列の違いが熱安定性にどのように影響するかを比較し、より安定なコンストラクト候補を絞りこむことが可能である。

Tmを指標とした熱安定性が高いコンストラクトを選択可能

結合活性によるコンストラクト選択(ITC

ヒストンシャペロンと異なる3つのヒストンペプチドの相互作用

創薬開発において、ターゲットタンパク質に対するより親和性の高い候補をいかに効率よく選択できるかが重要である。等温滴定型カロリメトリ―(ITC)は、分子間相互作用におけるアフィニティの他、特異性、および結合メカニズムを一度の測定で求めることが可能である。

下図はヒストンシャペロンであるTAF3(TBP(TATA binding protein)-associated factor)のPHDドメイン(plant homodomain)に対する、異なる3種のヒストンペプチド( 10-mer)の相互作用を比較している。上段は測定生データ、下段は横軸はモル比、縦軸は相互作用で生じたエンタルピー変化(△H)である。これらの相互作用は1つのシグモイドカーブが得られており、典型的な1:1結合で、フィッティング解析よりペプチドによってアフィニティが異なることが示唆された。アフィニティの違いは、カーブの傾きに反映しており、傾きが垂直に近いものほどアフィニティが強く、傾きが寝ていくほど弱いと判断できる。

このようにITCを用いると、より高親和性のコンストラクト選択が可能となる。

KDを指標とした高親和性なコンストラクトを選択可能


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