バイオ医薬品開発における物性評価技術:処方検討

バイオ医薬品開発の各ステージにおける評価すべき項目と、それらの評価が可能なマルバーン・パナリティカルの測定技術をご案内しています。こちらのページでは、「処方検討」について詳細をご紹介します。

コンストラクトが決まれば、初期の処方条件検討でターゲット分子がより安定でいられる条件を見いだすことが重要である。安定性には構造安定性とコロイド安定性を考慮する必要がある。開発工程が進むと、時間経過による劣化も考慮する必要がある。後期の処方条件最適化で、探索した処方条件が長期間にわたる保存に耐えうるかどうかは、生じる凝集体で判断することができる。マルバーン・パナリティカルの測定技術は、様々な角度から、構造安定性、コロイド安定性、および凝集体を評価し、製造工程に繋げる処方条件の探索、決定をサポートする。

拡散係数を用いた分散安定性の評価(DLS

抗体の濃度依存性からみる異なる処方条件での拡散係数比較

バイオ医薬品において、動的光散乱法(DLS)で求めた拡散係数を濃度に対してプロットすることで、分散安定性の評価が可能である。下図は異なる緩衝液に分散させたIgG抗体の、濃度変化に対する粒子径の変化をDLSで測定した結果である。

緩衝液1(上図左)では、濃度が高くなるにつれて、粒子径が大きくなり、拡散係数が小さくなっていることが確認できる。それに対して緩衝液2(上図右)では、粒子径が小さくなり拡散係数が大きくなっていることが確認できる。これは分子間相互作用の反発力によって、見かけ上の拡散係数が緩衝液2で大きくなっていることが影響している。下図は濃度に対する拡散係数をプロットしたもので、その直線の傾きがマイナスの場合(青)は分散安定性は低く、傾きがプラス(赤)であれば分散安定性が高く凝集体も少ないことが分かる。

このようにDLSを用いると、異なる処方条件におけるサンプルの分散安定性の評価が可能である。

→分散安定性を指標とした処方条件が選択可能

第2ビリアル定数を用いた分散安定性の評価(SLS

サンプル濃度依存性からみる異なる処方条件での第2ビリアル定数比較

光散乱法の一つである静的光散乱法(SLS)はサンプルの分子量や第2ビリアル定数(B22)が求められ、これらのパラメータで分散安定性を示唆することが可能である。上段は異なる濃度のNaClが含まれる緩衝液内のリゾチウムの分散安定性をSLSで評価した結果である。各NaCl濃度に対し、タンパク質濃度を変化させてKC/Rθをプロット(Debye-plot)し、その傾きからB22が求められる。このパラメータは溶質と溶媒の関係性を示しており、一般的にB22がプラスあればそのタンパク質の分散性は安定してることを示唆する。このことから、リゾチウムは0% NaCl入りの緩衝液条件下で分散安定性が高いことが示唆された。

下段は異なる緩衝液に同一抗体を入れたときの B22を比較したものである。この結果から、分散安定性が高いのは緩衝液2であることが分かる。

このようにSLSを用いると、異なる処方条件における分散安定性を考慮したタンパク質の評価が可能となる。

→分散安定性を指標とした処方条件が選択可能

電気泳動光散乱法用いた分散安定性の評価(ELS

異なる処方条件での抗体のゼータ電位比較

分散性の指標の一つであるゼータ電位は光散乱法の一つである電気泳動光散乱法(ELS)で求められ、分子とその周りの環境(緩衝液の種類)によって決まる。下図では異なる緩衝液でのIgGのゼータ電位を比較した結果を示している。ELSでは塩濃度を高めに設定するため、測定が不安定になりやすい。そのため、複数回測定して再現性を確認している。緩衝液1(青)では、ゼータ電位が低く、電気泳動移動度から計算によって求められるチャージ(データ非表示)も0.8と小さいことから、分散安定性は低く、双極子相互作用を示唆している。緩衝液2(赤)では、ゼータ電位とチャージが6.5と大きいことから、静電的安定性が高いと考えられる。

このようにELSを用いると、異なる処方条件での分子表面の相互作用による分散安定性の違いの評価が可能となる。

→分散安定性を指標とした処方条件が選択可能

TmおよびTaggを指標とした熱安定性評価(DLS

10の異なる処方条件でのリコンブミンの熱安定性比較

医薬品有効成分(API)の開発では、推奨される取り扱い条件で、長期保存において十分な安定性を提供する製剤を設計することが重要ある。

DLSでは、昇温条件下における粒子径の変化から、凝集が開始する温度(Tagg)が得られ、各種溶媒条件における熱安定性の評価が可能である。熱安定性が高い条件は、長期保存においても同様に安定であると考えられている。下図は様々なpHで調整した緩衝液に分散させたリコンブミンをDLSで昇温測定した結果である。pH 3〜10で調合されたサンプルのほとんどが同様のTm (67〜68 ℃)を示した。 pH 6で製剤化された2つのサンプル(赤枠)は、Tmが74 ℃を超えるまで凝集を開始しないため、最大の熱安定性を示した。これに対して、pH3(緑)と4(黄)で製剤化された2つのサンプルは、昇温開始の時点で粒子径が大きいことから、すでに変性状態であると考えられる。

このようにDLSで昇温測定を行うことで、異なる処方条件における熱安定性の評価が可能である。

→サイズを指標とした熱安定性評価でより良い処方条件が選択可能

TmおよびT1/2を指標とした熱安定性評価(DSC

19の異なる処方条件での抗体の熱安定性比較

バイオ医薬品の処方条件(緩衝液の種類、pH、添加剤など)は、各種溶液中のサンプルの熱安定性を示差走査型カロリメトリ―(DSC)で比較することで絞りこむことが可能である。上段のデータはpHの異なる3つの溶液条件で同一抗体を比較したDSCデータである。pH 3.5でメインピークのポジションが、pH5.5および6.2よりも低温側にシフトし、さらに変性開始温度も低くなっており、熱安定性が低い条件であることが分かる。中段のグラフは、ある抗体を異なる緩衝液、pHを持つ19の条件でDSC測定を行い、メインピークの変性温度(Tm)を比較している。Acetate 5.0からTris 7.5までの12条件で、ほぼ同等のTmを示し(中段赤矢印)、処方条件の候補と考えられた。通常はこの方法で製剤条件が絞り込まれるが、これに加え、下段のグラフは、中段と同条件で調整直後の抗体(青)と、1週間経過した抗体(黄)を、メインピークの高さの1/2の温度幅(T1/2)で比較している。 T1/2の温度幅が狭いほど、構造がコンパクトでより安定であると考えられ、Tmのみで比較するよりも更に絞り込まれた条件(下段赤矢印)になった。

このようにDSCで得られる複数のパラメータで、異なる緩衝液条件下におけるサンプルの熱安定性を比較すると、よりよい処方条件の決定が可能となる。

→複数の熱安定性指標の評価で、より良い処方条件の絞り込みが可能

散乱光によるタンパク質凝集体の定量化(NTA

創薬開発においてSVP(Sub Visible Particle)を検出、定量化することは重要である。

ナノ粒子トラッキング解析(NTA)では液中に存在する粒子にレーザを直接照射し、その散乱光をカメラで検知することで、光学顕微鏡では見えないサブミクロン・ナノサイズの粒子を最小で10 nmから*検出することができる。また、液中でのブラウン運動を画像処理で追跡(トラッキング)することで、その速度から粒子径を同時に算出する。タンパク質の凝集体は50 nm以上が検出でき、顕微鏡やフローサイトメータとクロマトグラフィーでの分析範囲の狭間を埋めることが可能である。

下図では緩衝液中のタンパク質のうち、凝集して散乱光が検出できるレベルにまで強くなった凝集体を検出している。横軸はサイズ、縦軸は粒子数である。

このようにNTAを用いると、従来の手法では検出が困難であった凝集体を視覚的に確認することができ、よりよい処方条件の決定をサポートする。         *粒子の素材や密度に依存する

→視覚的なSVPの確認、定量化が可能

散乱光による異なる処方条件によるSVPの定量評価(NTA

異なる4つの抗酸化剤を添加したインスリンのSVP検出

NTAでは、測定している領域が既知であるため、SVPの粒子濃度を算出することが可能である。下図は1 mg/mLのインスリンに対して、各種抗酸化剤を100 μM加え、4 ℃で72時間保存したサンプルについて、SVPの分析を行った結果である。横軸はサイズ、縦軸は粒子数である。抗酸化剤を含まないPBS中のインスリン(A)は、検出されるSVPの濃度が低いことがわかる。加える抗酸化剤により、凝集粒子が多く発生するもの(B、D、E)、しないもの(C)の違いが認められた。

このようにNTAを用いると、異なる処方条件におけるSVP含有量の定量的な評価が可能で、よりよい処方条件の決定をサポートする。

→視覚的なSVPの確認、定量化で、より良い処方条件の決定をサポート

粒子径分布変化による熱安定性評価(DLS

ConAに異なる4つの糖を添加した加速試験のサイズ変化比較

DLSでは、タンパク質製剤に添加剤を加えたときの熱安定性評価が可能である。

下図は1 mg/mLのConcanavalin A(Con A)に様々な糖(10 mM)を加え、これらの糖との結合によって熱安定性がどのように変化するかをDLSで昇温測定した結果である。横軸はサイズ、縦軸は光強度分布(Intensity(%))である。上段の35 ℃の状態では、きれいな単分散の状態であり、ピークトップの位置も重なっていることが確認できる。一方、下段では、47 ℃での状態で、糖の種類によって、凝集体の状態(大きさ、量)が異なることが確認できる。

メインピークである、10 nm付近の状態から、糖なし(薄紫)とGalactose(緑)は粒子径が大きくシフトし、凝集しているが、Glucose(青)、 Fructose(黒)、 Mannose(赤)はCon Aと結合し、熱安定性を向上させていることが示唆された。

このようにDLSを用いると、異なる添加剤における熱安定性の影響をサイズ変化で評価可能で、よい処方条件の決定をサポートする。

→粒子径分布を指標とした熱安定性評価で、より良い処方条件の絞り込みが可能

サイズ変化を指標とした安定性評価(SEC-LS

加速試験による抗体の会合、凝集、および断片化の確認

タンパク質製剤の加速試験による安定性評価として、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)がよく用いられる。

下図ではIgG抗体をバイアルにセットし、ウォーターバスにて任意の熱を加えたサンプルをSECで測定した結果である。調整直後(赤)と、60 ℃で135分保持した結果(紫)を比較すると、後者の方がモノマーの比率が大きく、ダイマーの比率が小さいことが確認された。60 ℃で60時間保持したサンプル(緑)では、凝集化が加速し、より大きな凝集体(赤矢印:RV 6 mL付近)が確認された。またモノマーのピークの後半(黄色矢印:RV 10 mL付近)にピークが現れ、断片化されることも確認された。

このようにSECを用いると、加速試験によるサンプルの安定性に起因する凝集、断片化の評価が可能となり、よい処方条件の決定をサポートする。

分子量(Da (含有量(%))
凝集体ダイマーモノマー不明
開始時654、500 (4.5)294、500 (14.3)147、100 (81.2)
60 ℃ / 135分547、100 (1.8)293、500 (5.2)145、900 (93.0)
60 ℃ / 60時間3、081、000 (1.2)588、400 (9.6)156、800 (75.0)133、400 (17.2)
→サイズ変化を指標とした熱安定性評価で、より良い処方条件の絞り込みが可能

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