DLS技術の概要
溶液中に微粒子(1μm以下)を懸濁(分散)させると、浮力と重力がつりあった状態であれば、粒子は沈降せずに自由に浮遊します。このときの浮遊状態は、溶液分子との各種の相互作用によって、液中微粒子特有の「ブラウン運動」と呼ばれるランダムな運動を始めます。この運動は、小さな粒子ほど速く、大きな粒子ほど遅くなることが知られています。
では、この粒子の速度をどのように計測するのか、考えてみましょう。この際に重要なキーワードは「レーザ」です。溶液中に懸濁している微粒子に良く位相のそろったレーザ光を照射すると、このブラウン運動の影響で粒子からの散乱光の信号は「揺らぎ(時間変動)≒光のちらつき」を持ちます。この揺らぎの間隔とブラウン運動の速度には相関性があります。
つまり、
- 小さい粒子 → 速い間隔で「揺らぐ」
- 大きな粒子 → 遅い間隔で「揺らぐ」
という関係性です(図1.)。
図1.粒子径と散乱強度の揺らぎの相関
ここで重要なのは、微弱な散乱光の「揺らぎ」を精度高く計測するためには、環境ノイズや振動などにも注意するほか、高精度な電子回路の設計と、レーザ光の位相・出力ができるだけ安定している必要があることです。とくにレーザに関しては、一般的に、半導体レーザよりもガスレーザのほうが発振する位相・出力ともに安定しているので、DLS測定に向いています。マルバーン・パナリティカルで、DLS装置にガスレーザを採用しているのはこのためです。
さて、精度高く散乱光揺らぎを計測すれば、あとは解析となります。ここで用いるのは、「液中分散したナノ粒子の大きさを見積もる場合、「拡散係数」と呼ばれる物理パラメータを用いると、粒子の大きさはその拡散係数に依存して計算できる」としたアインシュタイン・ストークス理論です。この拡散係数を見積もるために、散乱光信号の「揺らぎ」を「自己相関関数(Auto Correlation Function)」に変換します。この関数を用いて拡散係数を得ることで、平均粒子径や多分散指数を求める方法を光子相関法(Photon Correlation Spectroscopy:PCS)と呼びます。
図2.粒子径と自己相関関数の関係性
この自己相関関数プロファイルの意味を少し考えてみます(図3.)。自己相関関数が1の状態(Correlation 1)では、粒子はまだ動いていないので散乱強度に変化はありません。そこから時間が経過すると、粒子はランダムなブラウン運動を開始するので、一定時間が経過すると、「1」から「0」の状態に変化します。「1」から「0」になるということは、最初の位置から粒子がいなくなるので、散乱強度が減衰します。
粒子径が小さい場合、速いブラウン運動をしているので、1から0になるまでの時間が短くなるため、散乱光減衰の開始時間も早くなります。このため、自己相関関数が0に収束する時間が早くなります(図3.青線)。それに対して大きな粒子は、ブラウン運動が遅いために1から0になるまでに時間を要すため、自己相関関数の0に収束する時間が遅くなります(図3.赤線)。これらの挙動を表現するパラメータが拡散係数ということになり、自己相関関数プロファイルを解析することで、拡散係数を見積もることができます。
図3.小粒子と大粒子の自己相関関数
自己相関関数に対して、各種数値計算(フィッティング)をすることで拡散係数を求め、粘度等のパラメータを考慮して、各種の「粒子径」を解析します。具体的には、「キュムラント解析」を実施すると、キュムラント径や多分散指数(分布の度合い)が求まりますし、「NNLS法(非負最小二乗法)」などの解析を実施すると、粒子径分布が得られます(下図4.)。これらの計算法は複数あり、どの方式で解かれたかを理解することで、より多角的に解析を行うことができます。
図4.光子相関法の解析の流れ
マルバーン・パナリティカルのDLS製品
マルバーン・パナリティカルのDLS製品として、ゼータサイザーシリーズがあります。マルバーン・パナリティカルの動的光散乱法には、以下の利点があります。
- 1~2分で正確で信頼でき、再現可能な粒子径分析
- 自然環境中での材料測定
- 平均サイズの取得に必要なのは、液体の粘度に関する知識のみ
- シンプル、簡単な試料準備、高濃度のサンプルも直接測定可能
- 簡単なセットアップで完全自動化測定
- 測定可能サイズ範囲 < 1nm
- 測定可能分子量 < 1000Da
- 小容量要件(わずか2µL)
- 標準規格準拠: ISO 22412:2017, 21 CFR Part 11
製品について詳しくは、以下のページからご覧ください。