電気泳動光散乱法(ELS)は、分散媒中の粒子または溶液中の分子の電気泳動移動度とゼータ電位を測定するときに使用される手法です。
この用語は、電気泳動(印加電場による荷電粒子の懸濁液に対する移動)と、移動粒子から散乱される光の周波数シフトが測定されることに由来しています。
電気泳動光散乱の原理
ELSの実験では、実際に測定されるのは粒子の移動度であり、試料の一部の物理的パラメータ、すなわち分散媒の誘電率と粘度、それにヘンリー関数(F(Κa))がわかっていると、それをゼータ電位に変換することができます。
ヘンリー関数は、粒子半径と電気二重層の厚さの比であり、多くの場合、非極性系では1.0 (ヒュッケル近似)、極性系では1.5 (スモルコフスキー近似)に近似されます。
このゼータ電位への変換は、さまざまな実験条件下での材料の比較を可能にし、変換係数が明確に定義されていない場合に粒子移動度を使用することができます。
電気泳動移動度は、どのようにしてZetasizerで測定するのでしょうか？
実際は、分散液は2つの電極を含むセルの中に導入されます。電場が電極に印加されることで、実効電荷(より厳密には実効ゼータ電位)を有する粒子や分子は、その電荷に比例した速度で、反対側に帯電した電極に向かって移動します。
粒子の移動度と方向(したがって電気信号)は、位相解析光散乱(PALS)を使用して決定されます。
PALSは、試料を迂回する相互にコヒーレントな変調された基準ビームと比較して、試料から散乱された光の周波数(ドップラー)シフトから生じる位相差を解析します。これら2つのビームを組み合わせることにより、建設的干渉と破壊的干渉により、光源よりもはるかに小さい周波数の変調信号が生成されます。この「ビート」周波数は、散乱ビームと基準ビームの周波数差に等しく、粒子の移動度を決定するために使用されます。PALSを使用すると、(移動度の低い試料では)より小さな周波数シフトに敏感になり、粒子上の電荷の信号を直接決定できます。
ELSを使用するときの役に立つ考慮事項
ELS測定を行うときに考慮すべき点は数多くあります。Malvern Panalyticalでは、これらすべての要因を考慮して、最も正確で精密な移動度とゼータ電位を測定することができます。
その一部を以下に示します。
- 試料の相互汚染の可能性を最小限に抑えるディスポーザブルゼータ電位セル(DTS1070)
- 独自のM3-PALS分析により、電気浸透の影響を排除しながら、意味のある正確なゼータ電位分布を生成
- 高導電率試料用の定電流測定モードにより、電荷遮蔽の影響を低減し、電界強度を一定に保持
- ソフトウェアから包括的なZetaデータ品質を評価することにより、できる限り最高の結果を取得
- より複雑で困難な試料に対応する幅広いゼータセルの種類
電気泳動光散乱の応用
電気泳動光散乱(ELS)測定は、複数の科学分野と産業分野をカバーする幅広い応用領域に適用できます。
光散乱と電気泳動の原理を利用することで、ELSは溶液中の粒子や分子の正確な特性評価を可能にします。
以下は、ELS技術が重要な役割を果たす主な用途の一部です。
ナノ粒子の特性評価
Using zeta potential to assess protein adsorption to surfactant coated latex
ELSと動的光散乱は、ナノ粒子のゼータ電位とサイズの両方を決定するために広く使用されています。
これは、ナノテクノロジー、薬物送達、材料科学などのさまざまな分野で重要で、溶液中のナノ粒子の挙動を理解することは、その性能を最適化するために欠かせません。
タンパク質解析
Improving Protein Zeta Potential Measurements Utilizing A Novel Diffusion Barrier technique
生化学と生物物理学において、研究者はELSを使用してタンパク質製剤の安定性を評価します。
これは、医薬品開発とバイオ医薬品製造を支援するために使用されます。
コロイド安定性評価
ELSは、粒子のゼータ電位を測定することにより、コロイド分散の安定性に関する貴重な知見を提供します。
この情報は、塗料やコーティング、化粧品、食品、飲料などの業界にとって重要です。ここでは、製品の品質と保存期間にコロイド系の安定性を維持することが不可欠です。
ポリマー特性評価
ELSは、溶液中のポリマーのゼータ電位を決定するために使用されます。
これは、品質管理、配合最適化、及びさまざまな成形条件におけるポリマー挙動の理解のために、ポリマー科学と工学において不可欠なコロイド安定性を理解する上で重要です。
環境モニタリング
ELSは、天然水、土壌、及び堆積物中のコロイド系を分析するための環境科学において応用されています。
研究者は、ELSを使用して、コロイド汚染物質、ナノ粒子、及び生体分子の移動度と挙動を研究し、環境モニタリングとリスク評価を支援します。
製剤処方開発
ELSは、製剤処方の安定性、凝集傾向、及び表面電荷に関する重要なデータを提供することにより、医薬品の研究と開発において重要な役割を果たしています。
これにより、製薬会社は製剤パラメータを最適化し、医薬品の安全性と有効性を確保することができます。
農業と食品科学
ELSは、エマルジョン、懸濁液、及びコロイド成分の安定性と品質を分析するために、農業と食品産業で使用されています。
ELSは、粒子径とゼータ電位を監視することにより、製品の安定性、質感、及び官能特性の向上を支援します。
生物医学研究
生物医学研究では、ELSはDNA、RNA、ウイルスなどの生体高分子の研究に使用されます。
研究者は、ELSを使用して分子相互作用、構造変化、及び凝集現象を研究し、診断や治療の進歩を助けています。
当社の計器類
Malvern Panalyticalは電気泳動移動度の測定に電気泳動光散乱法を使用する最先端の装置を提供しています。
Zetasizerは、独自のディスポーザブルキャピラリーセルでサンプル間のクロスコンタミネーションを防いでおり、簡単、高速、高精度にゼータ電位を測定できます。
